摩周湖をユネスコ世界遺産に!! |
「北の世界遺産・摩周湖への道 〜北海道から世界へ〜」 キーワードは,自然(Nature),景観(Landscape),環境(Environment) 保護・保全(Preservation),継承(Inheritance),フロンティア・スピリッツ(Frontier Spirits) |
摩周湖(Lake Mashu)は,北海道の東部,川上郡弟子屈町にあります。摩周湖は,日本を代表する景勝地の一つで,その神秘的な自然景観は美しく感動的で,深い霧で覆われることが多いことから「霧の摩周湖」(作詞 水島哲 作曲 平尾昌晃 歌 布施明)としても謳われ,国民的にも親しまれ鑑賞されてきました。 摩周湖の地形は,火山活動によって内陸部に形成された淡水のカルデラ湖で,流出入する河川がないのに水位が変化しないユニークな自然現象をもっています。それに,摩周湖は,湖水の透明度が,既に世界遺産に登録されているバイカル湖(ロシア連邦 自然遺産 1996年)と共に世界有数であることで,国際的にも有名です。 それに,一般には余り知られていませんが,摩周湖は,地球環境,なかでも,大気の変化を知る為の環境のバロメーターとして,国連環境計画(UNEP)による陸水監視計画(GEMS)のモニタリング調査のステーションとして登録されており,学術的にもその保全価値は高く評価されています。 また,摩周湖は,古くは先住民族のアイヌ民族から神聖な湖として崇められ,湖心のカムイッシュ(神の島)や東岸のカムイヌプリ(神の山)などにもアイヌ語地名が残され現在へと伝承されています。摩周湖は,見方を変えれば,自然神としての聖湖でもあり,明治18年(1885年)に初めてこの地に入植し厳しい自然とも闘いながらこの地域を開拓し定住した先人以来長年共生し,内外に誇れる摩周文化を育んできました。 一方,摩周湖周辺は,エゾマツなどの森林の生態系も豊かであり今なお太古の姿を残す原生林に抱かれ,釧路川,硫黄山,屈斜路湖,そして,阿寒湖などと共に国立公園を構成しており,特別保護地区,第1種特別地域,第2種特別地域,第3種特別地域,乗入れ規制地域など保護管理措置も担保されています。 日本の摩周湖というよりは,地球環境を学習する生きた教材ともいえる世界の摩周湖を多様な世界遺産の一つに加えてもらいたいものです。 摩周湖の「顕著な普遍的価値」については,北海道庁が選定した「北海道遺産」の一つとして選ばれたことでも証明されています。2001年10月22日,北海道が誇る北海道遺産の第1回選定分として25件が発表されました。川,湖,湿原,原生花園,湧水,縄文文化遺跡群,歴史的建物群,炭鉱関連遺跡群,防風林,防波堤,路面電車,アイヌ語地名,アイヌ文様,渡御祭,雪合戦大会,ラーメンなど北海道らしい多様なものが選ばれました。 摩周湖が選定された視点として,下記の2点があげられています。 ●世界有数の透明度で知られ,大気汚染の指標に用いられるとともに,周辺の自然もよく保全され,その際だった景観は,北海道の湖沼と山岳の複合景観として最も代表的なものです。地元商工会が中心となって,世界遺産への登録を目指す取組みも活発化しています。 ●地元住民の環境意識向上を基本に据え,自然環境と調和しながら観光産業を活性化させようとする取組みが注目されます。そうして確保された清冽な水も,一つの資産として活用される可能性を持つものと思われます。 初回に応募された約4,000件の候補の中から第1次,第2次の選考を経て,最終的に選ばれた訳で,単純倍率でも160倍という超難関であったことがわかります。 北海道庁に望みたいことは,このプロジェクトを契機に,これらの「北の遺産」の中からユネスコの世界遺産リストへの登録,すなわち,「世界の遺産」にする為の体制整備を早期に図って頂きたいものです。。 日本には,現在,世界最大級の原生的なブナ林が展開する白神山地や縄文杉など太古の大自然の宝庫である屋久島など11件の世界遺産(自然遺産2件,文化遺産9件)がありますが,地域的に見て,世界遺産がないのは,北海道と四国だけです。北海道に期待したいのは,北海道らしい湖沼と山岳の複合景観,先住民族であるアイヌの歴史文化遺産,苦難の開拓時代を想起させる文化的景観,日本農業の近代化のモデルとなった農場,炭鉱などの産業遺産などです。 なかでも,国土面積が小さいわが国にとって,北海道からの自然遺産の登録が期待されています。世界遺産委員会での自然遺産への登録審査は,年々,厳しくなっており,面積規模ではなく,その質が問われています。今回,北海道遺産に選ばれた自然系のもので,国際的に通用するのは摩周湖ではないかと思います。 一方,先般,テレビ朝日の全国番組の「素敵な宇宙船地球号」で,「忍び寄る摩周湖の危機〜住人たちの意識革命〜」として,近年,環境悪化の為か湖水の透明度が落ちてきた摩周湖のことを憂慮した弟子屈町商工会青年部の方々の活動が紹介されました。弟子屈町は,北海道の東部,釧路川の上流域にある人口約1万人の町。昭和の名横綱大鵬(第48代横綱 二所ノ関部屋 横綱昇進年月 昭和36年9月 (21歳) 引退年月昭和46年5月 (30歳))の出身地としても知られています。 危機にさらされつつある摩周湖を救いたいという熱い思いは,摩周湖世界遺産登録実行委員会として動き始めました。摩周湖をユネスコの世界遺産リストに登録することを通じて,かけがえのない素晴らしい摩周湖の自然環境を守り,責任をもって未来に継承していくという約束をすることでもあります。 弟子屈町商工会青年部の方々の摩周湖の世界遺産登録に向けての活動は,21世紀のニューフロンティアとして,地元北海道はもとより,日本全国,そして,世界へと伝わり,その努力は,いつしかきっと開花し実を結ぶことでしょう。摩周湖世界遺産登録実行委員会が日本における世界遺産登録運動のモデル・ケースとなる様,その活動自体も記録に残していっていただきたいと思います。 摩周湖世界遺産登録実行委員会の皆さんにエールをおくりたいと思います。 <文責 古田陽久> <参考資料> ●World Lakes Database by International Lake Environment Committee(ILEC) ●The United Nations Environment Programme (UNEP) ●International Union for the Conservation of Nature and Natural Resources(IUCN) [World Conservation Union] ●UNEP World Conservation Monitoring Centre ●〔エピソード〕未来への贈り物 北海道遺産 第5回摩周湖 (注)1.北海道遺産 石狩川(石狩、空知),摩周湖(弟子屈町),霧多布湿原(浜中町),ワッカ原生花園(常呂町),京極のふきだし湧水(京極町),螺湾(らわん)ブキ(足寄町),根釧台地の格子状防風林(厚岸町、中標津町、別海町など),内浦湾沿岸の縄文文化遺跡群(南茅部町,伊達市など)(南茅部町、長万部町、豊浦町、虻田町、伊達市など),上ノ国の中世の館(たて)(上ノ国町),福山城(松前城)と寺町(松前町),姥神大神宮渡御祭(江差町),ピアソン記念館(北見市),増毛の歴史的建造物(駅前の歴史的建造物群と増毛小学校)(増毛町),留萌のニシン街道(佐賀番屋,旧花田家番屋,岡田家)(留萌市,小平町,苫前町),北海道大学 札幌農学校第2農場(札幌市),空知地域に残る炭鉱関連施設群(空知),旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群(上士幌町),路面電車(函館市,札幌市),函館山と砲台跡(函館市),小樽みなとと防波堤(小樽市),稚内港北防波堤ドーム(稚内市),昭和新山国際雪合戦大会(壮瞥町)アイヌ語地名,アイヌ文様,北海道のラーメン (注)2.北海道遺産構想 北海道の自然,文化,産業,生活など,次の世代に遺すべきものをみんなで掘り起こそう,そして,その取り組みを通して,もっと地域のことを知り,個性的な地域づくりや新たな魅力を持った北海道づくりを進めようとの趣旨で,「北海道遺産」の掘り起こしが行われています。この構想は,1997年に堀知事が提唱した「北の世界遺産構想」を具体化したもので,有形無形を問わず,次世代に伝えたいもので,地域を語るもの,身近すぎて見過ごしてきたもの,反省を含めて遺したいものなどを,道民から幅広く募り,推薦された候補の中から「北海道遺産」を選定するもので,一人ひとりがそれぞれの視点で北海道を見つめ直す画期的な試みで,全国的にも注目されています。道民,行政,企業などが協力して北海道遺産の魅力を高めるために保全や活用方法を考え,更に各地の多彩な「北海道遺産」情報をネットワーク化して,北海道全体をひとつのミュージアムにしようという壮大な構想です。 <参考文献> 「世界遺産ガイド −世界遺産条約編ー」(シンクタンクせとうち総合研究機構 発行) 「世界遺産Q&A −世界遺産化への道しるべー」 (同上) 「世界遺産Q&A −世界遺産の基礎知識ー2001改訂版」 (同上) 「世界遺産ガイド −自然遺産編ー」(同上) 「世界遺産ガイド −国立公園編ー」(同上) 「世界遺産ガイド −名勝・景勝地編ー」(同上) 「世界遺産ガイド −文化遺産編ー4.文化的景観」(同上) 「世界遺産ガイド −複合遺産編ー」(同上) 「世界遺産データ・ブック −2003年版ー」 (同上) 「世界遺産事典 −関連用語と全物件プロフィールー2001改訂版 」 (同上) 「世界遺産ガイド −危機遺産編ー」 (同上) 「世界遺産マップス −地図で見るユネスコの世界遺産ー 2001改訂版」 (同上) 「世界遺産フォトス −写真で見るユネスコの世界遺産ー」 (同上) 「世界遺産フォトス −第2集 多様な世界遺産ー」 (同上) 「世界遺産ガイド −日本編ー2001改訂版」 (同上) 「世界遺産ガイド −日本編ー2.保存と活用」 (同上) 「世界遺産学入門 −もっと知りたい世界遺産ー」 (同上) 「誇れる郷土ガイド −東日本編ー」(同上) 「誇れる郷土ガイド −北海道・東北編ー」(同上) 「誇れる郷土ガイド −口承・無形遺産編ー」(同上) シンクタンクせとうち総合研究機構 事務局 sri@orange.ocn.ne.jp <追 記> 2002年9月20日の釧路新聞によると,世界遺産の審査を担当しているIUCNのレスリー・フランシス・モロイ氏(ニュージーランドの元自然保護省広報普及局長)が9月13日から15日にかけて,世界遺産登録運動を展開している弟子屈町の摩周湖など釧路地域の各地を訪れていたことが19日明らかになった。ユネスコの世界遺産委員会が検討している自然遺産の暫定リスト作成の義務化についての指導を受ける為,日本自然保護協会が招聘した。モロイ氏は阿寒湖,釧路湿原,知床,大雪山国立公園も訪れている。 Dr.Les Molloy (前ニュージーランド自然保護省遺産解説調整官)は,知日家で,白神山地及び屋久島の登録前調査,それに,登録後の保全状況にかかわるIUCNが委嘱する調査団(1997年10月14日〜21日)として訪日しているお馴染みの人物です。 |
(出所)国立環境研究所(National Institute for Environmental Studies) |
世界遺産化へのチェック・ポイント |
Identification of the Property |
□Country (and State Party if different)
□State, Province or Region □Name of Property □Exact location on map and indication of geographical co-ordinates to the nearest second □Maps and/or plans showing boundary of area proposed for inscription and of any buffer zone □Area of site proposed for inscription (ha.) and proposed buffer zone (ha.) if any |
Justification for Inscription |
□Statement of significance □Possible comparative analysis (including state of conservation of similar sites) □Authenticity / Integrity □Criteria under which inscription is proposed (and justification for inscription under these criteria) |
Description |
□Description of Property □History and Development □Form and date of most recent records of site □Present state of conservation □Policies and programmes related to the presentation and promotion of the property |
Management |
□Ownership □Legal status □Protective measures and means of implementing them □Agency / agencies with management authority □Level at which management is exercised (e.g., on site, regionally) and name and address of responsible person for contact purposes □Agreed plans related to property (e.g., regional, local plan, conservation plan, tourism development plan) □Sources and levels of finance □Sources of expertise and training in conservation and management techniques □Visitor facilities and statistics □Site management plan and statement of objectives (copy to be annexed) □taffing levels (professional, technical, maintenance) |
Factors Affecting the Site |
□Development Pressures (e.g., encroachment,
adaption, agriculture, mining) □Environmental Pressures (e.g., pollution, climate change) □Natural disasters and preparedness (earthquakes, floods, fires, etc.) □Visitor / tourism pressures □Number of inhabitants within site, buffer zone □Other |
Monitoring |
□Key indicators for measuring state of conservation
□Administrative arrangements for monitoring property □Results of previous reporting exercises |
Documentation |
□Photographs, slides and, where available,
film / video □Copies of site management plans and extracts of other plans relevant to the site □Bibliography □Address where inventory, records and archives are held |