第29回世界遺産委員会ダーバン会議 ヨーロッパの10か国にまたがる「シュトルーヴェの観測点群」が世界遺産の候補に! |
2005年7月10日から17日まで、南アフリカ共和国(面積 122万km2 日本の約3.2倍、人口 約4,500万人 首都 プレトリア)のダーバン市の国際コンベンション・センターで、ユネスコの第29回世界遺産委員会が開催されます。ダーバン市(人口 126.4万人)は、インド洋に面する南アフリカ最大の貿易港で、南アフリカ共和国では、ケープタウン、ヨハネスブルグに次ぐ大きな都市で、アフリカのサハラ以南では初めてとなる世界遺産委員会開催地となります。 世界遺産委員会は、180か国の世界遺産条約締約国から選任された21か国の締約国からなります。今回の世界遺産委員会の委員国は、アルゼンチン、中国、コロンビア、エジプト、レバノン、ナイジェリア、オーマン、ポルトガル、ロシア連邦、セントルシア、南アフリカ、イギリス、チリ、ベニン、インド、日本、クウェート、リトアニア、ニュージーランド、オランダ、ノルウェーで、南アフリカが議長国で、センバ・ワカシェ氏(Mr.Themba Wakashe)が議長を務めます。 第29回世界遺産委員会で、「世界遺産リスト」への登録の可否が決まる候補物件として、日本の「知床」など44か国からの42物件(自然遺産候補 10物件、複合遺産候補 4物件、文化遺産候補 28物件)の名前が挙がっています。 自然遺産関係については、自然保護区や国立公園などの自然保護地域、文化遺産に関しては、文化的景観、産業遺産、交易など(広義の)文化の道(路)などユネスコ、IUCN、ICOMOSが戦略的に重要と位置づけている分野やカテゴリーのもの、それに、一般的には余り知られていないが地球史、或は、人類史のなかで意義のある学術的な価値が高い物件が出てくるようになったと思います。 なかでも、注目されるのは、ベラルーシ、エストニア、フィンランド、ラトヴィア、 リトアニア、ノルウェー、モルドヴァ、ロシア連邦、スウェーデン、ウクライナの10か国の34箇所にまたがるStruve Geodetic Arc「シュトルーヴェの観測点群」です。 シュトルーヴェの観測点群は、ドイツ系ロシア人の天文学者のヴィルヘルム・シュトルーヴェ(1793〜1864年 ドルパト大学天文学教授兼同天文台長)を中心に、1816年〜1855年の約40年の歳月をかけて設定、地球の形や大きさを調査するのに使用されました。人類の科学・技術史上、顕著な普遍的価値を有するモニュメントです。 また、EUの拡大、統合に象徴されるように、ヨーロッパ諸国の国境を越えたボーダレスな世界遺産登録、それに、登録範囲の拡大は、一体的で、「世界遺産に国境はない」ことを表わす大変良い傾向だと思います。 わが国でも著名なものでは、ノルウェーのWest Norwegian Fjords - Geirangerfjord and Naeroyfjord「西ノルウェー・フィヨルド−ガイランゲル・フィヨルドとネーロイ・フィヨルド」、中国のThe Historic Monuments of Macao「澳門(マカオ)の歴史的建造物群」が挙げられます。 ユニークな物件としては、世界最大規模の巨大な隕石孔である南アフリカのVredefort Dome「フレデフォート・ドーム」、アルプス造山帯の地殻運動によって出来たスイスのGlarus Overthrust「グラールス衝上断層」、世界有数の印刷出版関系の博物館であるベルギーのPlantin-Moretus Museum「プランタン・モレトゥス印刷博物館」 、チェコの南ボヘミア地方のトシェボニュにある鯉など淡水魚の養魚池Trebon Fishpond Heritage「トシェボニュの養魚池遺産」などです。 今回、世界遺産になれば、その国では初めての世界遺産が誕生する国は、バーレン、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ガボン、モルドヴァの4か国です。 日本の「知床」に関しては、IUCN(国際自然保護連合)の評価報告書で、登録勧告がなされたことから、世界遺産登録は、きわめて確実なものになりました。「知床」が、世界遺産リストに登録されれば、日本では13番(件)目の世界遺産の誕生となります。日本の自然遺産では、屋久島、白神山地に次いで3番(件)目、登録範囲に海域が含まれるものとしては日本初、登録基準で、その生物多様性が認められたものとしても日本初となります。日本の地域的にも、北海道から初めて世界的に顕著な普遍的価値を有する世界遺産が誕生することになります。 新登録の物件の数については、、2000年11月にオーストラリアのケアンズで開催された第24回世界遺産委員会ケアンズ会議で、新登録物件の数を原則1締約国1物件(世界遺産がまだない締約国については3物件まで),上限を暫定的に30物件と決めた,いわゆる「ケアンズ・デシジョン」を採択しました。その後、ワーキング・グループを設け検討した結果、2003年6月に開催された第27回世界遺産委員会パリ会議において、上限の数の設定を40に変更する、「パリ・デシジョン」を採択しました。 第28回世界遺産委員蘇州会議では、少なくとも1つの自然遺産関係の推薦物件がある場合には、2物件までの登録が可能となり、また、推薦物件数の上限も、以前の世界遺産委員会で見送り、或は、照会物件、登録範囲の拡大物件(境界部分の若干の変更は除く)、国境をまたぐ連続する物件を含む45物件に設定する旨の「蘇州デシジョン」を採択、このことは、2005年2月に改訂された「世界遺産条約履行の為の作業指針」(いわゆるオペレーショナル・ガイドラインズ)にも反映され、2006年6月に開催される第30回世界遺産委員会から適用されることになりました。 今回の第29回世界遺産委員会で候補にあがっている物件は、新登録候補物件が42物件、登録範囲の拡大候補物件が9物件の合計51物件の名前があがっています。 仮に1物件の審議に要する時間を30分と仮定した場合、この議案の審議に数日間、要することになります。物件の審議の順番は、当該国のアルファベット順、自然遺産を先に済ませるのか、或は、文化遺産なのかにもよりますが、これらの中から、新しく「世界遺産リスト」入りするもの、或は、次回の世界遺産委員会以降に持ち越されるもの、或は、世界遺産にはふさわしくないと決せられるものと命運はわかれます。 今回の会議も、一応、下記の様なスケジュールが組まれていますが、時間が十分ない為、夜遅くまで熱心な議論が展開されることが予想されますが、IUCNやICOMOSの評価報告書の信頼性が高まっていることから、個々の物件の微視的なことではなく、大所高所に立ったグローバル・ストラテジックな議論の展開が予想されます。 7月10日(日)受付開始、ビューロー・ミーティング、会議の開催行事 7月11日(月)開催、報告事項、危機にさらされている物件の保全状況の審議 7月12日(火)危機にさらされている物件の保全状況の審議、世界遺産リストに登録されている物件の保全状況の審議 7月13日(水)世界遺産リストに登録されている物件の保全状況の審議、2005年5月30日現在の暫定リストの報告 危機にさらされている世界遺産リスト、世界遺産リストの各候補物件の審議 7月14日(木)世界遺産リストの各候補物件の審議、北アメリカの世界遺産に関する定期報告、 ヨーロッパの世界遺産に関する定期報告準備の進捗状況についての報告 7月15日(金)パレスチナの自然と文化の遺産の保護に関する進捗状況の報告、 世界遺産委員会、世界遺産基金など管理・財務事項に関するワーキング 議長国、副議長国等の改選、第30回世界遺産委員会の議案 7月16日(土) パートナーズ・デイ Partners for Africa 7月17日(日) 第29回世界遺産委員会での決議事項の採択、閉会 日本の知床が世界遺産になることが判明するのは、早ければ、現地時間で、7月13日の午後、遅くとも7月14日の午前(日本時間では、、13日夜遅くから14日にかけて))になるのではないかと思われます。 世界遺産になることが決まった場合、知床がユネスコの「世界遺産リスト」に正式に登録されるのは、世界遺産委員会最終日の2005年7月17日になる運びです。 また、次回の第30回世界遺産委員会は、どこの国がホスト国になるのでしょうか。これまでの開催国の地域的バランスやローテーションを考えるとラテン・アメリカの国での開催が想定されます。次々回の第31回世界遺産委員会は、アラブ諸国での開催が想定されますが、立候補を表明する国がない場合には、日本での第2回目の開催は考えられないものでしょうか。 第31回世界遺産委員会が開催されるのは、2007年(平成19年)6〜7月、日本の世界遺産委員会の任期(第34回ユネスコ総会の会期終了<2007年10月頃>まで)中の最後の委員会で、「石見銀山遺跡」の登録手続きが順当に進めば、この委員会で世界遺産登録の可否が決まることになります。 先回、日本で開催された世界遺産委員会は、第22回世界遺産委員会(1998年11月30日〜12月5日)で、京都市で開催され、日本関係では、「古都奈良の文化財」(文化遺産)が世界遺産になりました。 もし仮に、日本で第31回世界遺産委員会を開催する場合、どの都市が開催地にふさわしいのでしょうか。世界遺産候補地(「石見銀山遺跡」)に近いということであれば広島市、今回、知床が世界遺産に登録されれば、知床がある北海道の都市で、国際コンベンション機能を有する都市、すなわち、札幌市、或は、釧路市、北見市という可能性もないわけではありません。 第31回世界遺産委員会を日本に招致したい意向を、然るべき行政のトップの方が今回の委員会のワーキング等の際に表明されることも、大変、意義のあることではないでしょうか。 尚、各物件の概要等については、シンクタンクせとうち総合研究機構発行の世界遺産シリーズ、「世界遺産ガイド」、「世界遺産データ・ブック」の中で、逐次、ご紹介してまいります。 古田 陽久 |
帰国報告会・エッセイ・依頼事項等について |
一昨年の第27回世界遺産委員会パリ会議、昨年の第28回世界遺産委員会蘇州会議に続き、今回のオブザーバー・ステイタスで、参加致します。帰国後の報告会、エッセイ等の執筆、依頼事項等がございましたら、ご連絡下さい。 |
日本からダーバンへの旅行手配について |
世界遺産委員会開催時期の日本からダーバンへの旅行手配については、 下記にお問い合わせされると良いでしょう。 JTB教育旅行東京西支店内 JTB世界遺産デスク 宗本、金子、鈴木 さま 電話03-5351-0031 |