2009年8月、青森県の三内丸山遺跡などと共に「北海道・北東北を中心とする縄文遺跡群」として、2015年の世界遺産登録をめざす岩手県一戸町の御所野遺跡を訪問する機会を得た。
滞在中に町の伝統行事である「一戸まつり」を見学したが、各町内会毎の工夫を凝らした風流山車などがユニークで、大変、感動した。
地方の祭りは、後継者難で廃れつつあるが、先人が残した遺産を守り、未来社会へと責任をもって継承していく必要性は、世界遺産の考え方と同じである。
現在、ユネスコの「世界遺産リスト」に登録されている世界遺産は、890、その内、日本にある世界遺産は、14で、北海道・東北地方にある世界遺産は、知床と白神山地の二つで、いずれも、自然遺産である。
従って、この地方から、日本を代表する文化遺産の誕生も待望される。
昨年の世界遺産委員会で登録延期となった「平泉の文化遺産」は、2011年の世界遺産登録の実現に向けて再チャレンジすることになるが、これに続いて有望なのが、「北海道・北東北を中心とする縄文遺跡群」である。
日本の各時代の物件が出揃うなかで、縄文時代の遺跡群が、この地方に密に分布するのも特色であるが、世界に通用する独自の「顕著な普遍的価値」を、その出土品などの特徴から証明していかなければならない。
今後、世界遺産登録に向けてのストーリーの確定、構成資産の選別、コア・ゾーンやバッファー・ゾーンの設定、長期的な保存管理計画の策定などの詰めが必要である。
平泉の場合と異なるのは、登録範囲が、北海道、青森県、秋田県など他県とまたがる連続した登録であるが、文化遺産関係の知恵と経験を有するのは岩手県だけであり、平泉の教訓を生かして欲しい。
世界遺産をめざす意義、これは、決して、世界遺産登録がゴールでもなければ、世界遺産ブランドを冠し観光地化を図ることが目的でもない。
縄文遺跡は、古代の縄文人が住んだ証しであり、縄文人との心の対話ができる神聖な文化空間とも言える。
従って、緑ゆたかな里山、清らかな川などの自然環境と縄文遺跡との共同作品である文化的景観を、あらゆる脅威、危険から守り、未来世代に責任をもって継承していくことが大切である。
その為には、常日頃からの監視活動を強化すると共に、土砂災害など不測の事態にも対応できる防災管理も大切である。
御所野遺跡の長期的な保存管理体制を考える時、他律的なものではなく、あくまでも、地元の一戸町の行政と住民とが主体となって協働し、それを、国と県とが支援していく取組みが必要で、世界遺産登録実現に向けての必要な作業が、結果的に、一戸町のまちづくりにつながれば理想的である。
(2009年10月1日 岩手日報夕刊 日報論壇)
世界遺産総合研究所 所長 古田陽久(ふるたはるひさ)
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