第34回世界遺産委員会ブラジリア会議 世界遺産は、21物件増えて、911物件(自然遺産 180 複合遺産 27 文化遺産 704) 危機遺産は、4増1減で、34物件 2011年の第35回世界遺産委員会は、アラブ諸国のバーレーン |
毎年開催されるユネスコの世界遺産委員会は、私たち、世界遺産の研究者にとって、新年を迎える様な新たな気持ちにさせられます。 今年の第34回世界遺産委員会は、2010年7月25日から8月3日まで、ブラジルの首都ブラジリア市にあるロイヤル・チューリップ・ブラジリア・アルボラーダ・ホテルのコンベンション・センターで、開催されました。 ブラジリア市は、ブラジル中央部の標高約1100mの高原地帯にある、人口 約256万人(首都圏 約360万人)、1960年4月21日にリオ・デ・ジャネイロから遷都、50周年を迎えた計画都市で、1987年に、「世界遺産リスト」に登録された世界遺産都市でもあります。 ブラジリアは、当時のジュセリーノ・クビチェック政権が内陸部の開発と国土の均衡発展を目指して建設を決定、ブラジルを代表する建築家オスカー・ニーマイヤー氏らが設計し、1960年4月21日に供用が始まりました。 人造湖のパラノア湖畔に、飛行機が翼を広げた形の都市地域や独特の丸みを帯びた建造物は、当時の新都市建設の最先端を象徴していると言えます。 世界遺産委員会がブラジリアで開催されるのは、1988年の第12回世界遺産委員会に続いて、2度目になります。 ブラジルと言えば、2008年に日本人ブラジル移住100周年を記念して、日本ブラジル交流年(日伯交流年)事業が行われました。 また、ブラジルは、南アフリカでの興奮が覚めやらないワールドカップの次回大会、2014 FIFAワールドカップ の開催国に決定しています。ブラジリアも、ブラジル国内での会場となるベロオリゾンテ、ブラジリア、クイアバ、クリチバ、フォルタレザ、マナウス、ナタール、ポルトアレグレ、レシフェ、リオデジャネイロ、サルバドル、サンパウロの12都市の一つに選ばれており、4年後のイメージを心静かに膨らませています。 私にとって、ブラジルは、2度目になります。ブラジリアは、初めてですが、大学の「世界遺産基礎演習」の授業の中で、世界遺産の事例研究の題材の一つとして、「ブラジリア」を取り上げ、次の様な点について、議論してきたこともあり、大変、親しみのある都市です。 ①ブラジルにとって、ブラジリアへの遷都、そして、都市計画は、果たして、成功だったのかどうかの検証。 ②世界遺産の登録範囲、バッファー・ゾーンを設定し、コア・ゾーンとの境界を明らかにすることの必要性。 ③オルラ・プロジェクト、プラナウトの町の開発、W3大通りの交通改善、住宅街のスーパーカドラの土地利用の変更などの プロジェクトが 世界遺産に与える影響。 ブラジリアは、文献や映像で見てきたイメージと実際に自分の目で見てみたのとでは、若干、印象が異なりました。機会があれば、お話したいと思います。 ブラジルと日本とは、季節は逆で、今、冬、寒さというよりは、日本の秋の様な感じです。ブラジリアと日本との時差は、12時間と昼夜逆転、飛行時間が約24時間、乗り継ぎなどの時間を含めると約2日間の日時を要し、入国するにもビザが必要で、コスト、時間、共に、なかなか行けない地ではありますが、一度は見ておくべき価値のある新都市です。 私は、広島に住んでいるので、これまで、南半球の都市に行く場合には、広島、関空或は成田、アメリカの都市を経由して行っていましたが、今回は、大韓航空/デルタ航空のコード・シェア便を利用、岡山-仁川-ロス-サンパウロ-ブラジリアという経路で行きました。 日本からブラジリア、地球の反対側に行くわけですから、同じ目的地に行くにも、アメリカ、ヨーロッパ、アラブ経由など様々なルートの選択肢があるのも不思議です。 ブラジリアから約320km離れた世界遺産地のゴイアス・ベーリョにも、会議が始まる前に行きましたが、ブラジリアとは対照的なコロニアル様式の歴史的な町並みと景観が印象的でした。 高速バスで、片道約5時間半を要するのですが、途上のセラードの植生景観は、日本には見られないもので、また、ブラジルの多くの地で、土の色が赤いのも、自然条件が大きく異なることをあらわしています。 ブラジルの人は、大変、親切で、特に、日系3世の人に何人もお会いする機会に恵まれました。「ハルとナツ」とのドラマではありませんが、祖国日本への思いは熱く、いつしか、自分のお祖父さんやお祖母さんの国に行ってみたい、住んでみたいという強い気持ちが伝わってきました。 今年の世界遺産委員会については、登録関係では、新登録の候補が39件(33か国)、登録範囲の拡大申請が9件について審議されました。15年ぶりのアメリカ合衆国からの新たな世界遺産、それに、マーシャル諸島、キリバス、タジキスタンからの初めての世界遺産が誕生しました。 自然遺産関係では、太平洋上のフェニックス諸島や北西ハワイ諸島の海洋保護区、世界ジオ・パークにも認定されている中国の丹霞地形など、文化遺産関係では、マーシャル諸島のビキニ環礁核実験地、オーストラリアの囚人遺跡群の2つは、人類にとっての「負の遺産」といえます。それに、インドの天体観測施設、韓国の歴史的集落など物件が、新たに、世界遺産リストに登録されました。 しかしながら、新登録については、専門機関のIUCN やICOMOSの評価内容を見ると、今年は、大変厳しい結果になっており、不登録勧告や登録延期勧告の物件が目立ちました。 不登録勧告の物件については、不登録決議になれば、再チャレンジ出来なくなる為、事前撤回(辞退)した国が幾つかありました。 今回の世界遺産委員会の審議では、専門機関のIUCN やICOMOSの評価を尊重しながらも、情報照会勧告の多くが登録(記載)決議になり、寛容な議事進行がなされた様に思います。 5月に専門機関の評価結果が、それぞれの関係締約国にフィード・バックされましたが、その結果を受けて、当事国が、速やかに、情報照会内容に関する補足情報を、ユネスコ世界遺産センターに報告したものと思われます。 登録延期勧告の物件も、幾つか、登録(記載)決議になっていますが、これも、専門機関の評価に対して、当事国の正当な異議申し立てが功を奏したのかもしれません。 また、既登録の147の世界遺産の保護管理状況が報告されました。危機遺産関係では、ウガンダの「カスビのブガンダ王族の墓」(2010年3月の火災により罹災)など4物件が、新たに危機遺産リストに登録されました。 世界遺産は、世界遺産登録後も、常に自然災害や人為災害の脅威や危険にさらされており、不測の事態に対応した災害危険軽減の為の戦略と実効性のある監視強化メカニズムが機能しなくてはなりません。 一方、エクアドルの「ガラパゴス諸島」については、外来種の駆除など保護措置の強化によって事態が改善された為、危機遺産リストから解除されました。 ユネスコの世界遺産の数が、1000物件に到達するのは、2013年頃だと推測していましたが、もっと時間がかかりそうで、2015年前後になりそうです。 年1回の限られた期間での世界遺産委員会、事務局のユネスコ世界遺産センター、専門機関のIUCNやICOMOSにとっても、世界遺産の管理の限界が来ているのではないかと推察されます。 これだけ、多様な自然遺産や文化遺産が世界遺産リストに登録されると、文化財の保存と修復などは、世界遺産を守っていく為の技術的な手段の一つでしかありえず、もっと、地球と人類の為の大局的な見地に立った世界遺産条約の大義と枠組みの転換が必要である様に思いました。 2011年の第35回世界遺産委員会は、アラブ諸国のバーレーン(多分、首都のマナーマ)で、6月に開催されます。議長は、シェイハ・メイ・ビント・モハンマド・アール・ハリーファ氏(H.E.Shaikha Mai bint Mohammed Al Khalifa バーレーン文化情報相)が務めます。 わが国の「平泉」、「小笠原諸島」も、愈々、正念場です。日本国民が待望する「富士山」の世界遺産登録も、国内的には、2013年以降に延期されましたが、地元の住民同意など、世界遺産登録の実現に向けて、「完全性」を、より高めていく努力が、山梨県や静岡県など地元関係自治体に求められています。 第34回世界遺産委員会で、新たに、「世界遺産リスト」に登録された物件の概要等については、シンクタンクせとうち総合研究機構発行の世界遺産シリーズ、「世界遺産データ・ブック 2011年版」、「世界遺産事典-911全物件プロフィール-2011改訂版」、「世界遺産マップス-地図で見るユネスコの世界遺産-2011改訂版」、それに、テーマ別の「世界遺産ガイド」等の中で、今後、逐次、ご紹介してまいります。 古田陽久 Memories of Brasilia |
「危機遺産リスト」に新たに登録された物件 Bagrati Cathedral and Gelati Monastery (Georgia) Rainforests of Atsinanana (Madagascar) Tombs of Buganda Kings (Uganda) Everglades National Park (United States of America) 「世界遺産リスト」に新たに登録された物件 複合遺産 Papahānaumokuākea (United States of America) 文化遺産 Australian Convict Sites (Australia) São Francisco Square in the Town of São Cristovão (Brazil) Historic Monuments of Dengfeng, in the "Centre of Heaven and Earth" (China) Episcopal City of Albi (France) Jantar Mantar (India) Sheikh Safi al-Din Khānegāh and Shrine Ensemble in Ardabil (Islamic Republic of Iran) Tabriz Historical Bazaar Complex (Islamic Republic of Iran) Bikini Atoll, Nuclear Test Site (Marshall Islands) Camino Real de Tierra Adentro (Mexico) Prehistoric Caves of Yagul and Mitla in the Central Valley of Oaxaca (Mexico) Seventeenth-century Canal Ring Area inside the Singelgracht, Amsterdam (Netherlands) Historic Villages of Korea: Hahoe and Yangdong (Republic of Korea) At Turaif District in ad-Dir'iyah (Saudi Arabia) Proto-Urban site of Sarazm (Tajikistan) Imperial Citadel of Thang Long-Hanoi (Viet Nam) 自然遺産 China Danxia (China) Pitons, Cirques and Remparts of Reunion Island (France) Phoenix Islands Protected Area (Kiribati) Putorana Plateau (Russian Federation) Central Highlands of Sri Lanka (Sri Lanka) 登録範囲の拡大 City of Graz - Historic Centre and Schloss Eggenberg (Austria) Pirin National Park (Bulgaria) Mines of Rammelsberg, Historic Town of Goslar and Upper Harz Water management System Røros Mining Town and the Circumference (Norway) Churches of Moldavia Prehistoric Rock-Art Sites in the Côa Valley and in Siega Verde (Portugal) Monte San Giorgio (Italy) Ngorongoro Conservation Area (Tanzania, United Republic of) 自然遺産 → 複合遺産 |