第30回世界遺産委員会ヴィリニュス会議 世界遺産の数は830、危機遺産の数は31に |
2006年7月8日から16日まで、リトアニア(面積 6.5万km2、人口 約340万人、GDP 401億ドル)の首都ヴィリニュス市(人口 54万人)にある旧ソ連時代からの名門ホテルであるレヴァル・ホテル・リェトゥーヴァと会議センター(Konstitucijos Ave 20, Vilnius, 09308 Lithuania)で、ユネスコの第30回世界遺産委員会が開催されました。ヴィリニュス市は、リトアニアの南東部、ネリス川沿いに位置しており、その旧市街は、1994年に世界遺産に登録され、新市街と共に、大変、美しい町並みを誇っています。 世界遺産委員会は、182か国の世界遺産条約締約国から選任された21か国の締約国からなります。今回の世界遺産委員会の委員国は、○チリ、○ベニン、○インド、日本、○クウェート、◎リトアニア、△ニュージーランド、○オランダ、ノルウェー、カナダ、キューバ、イスラエル、ケニア、マダガスカル、モーリシャス、モロッコ、ペルー、スペイン、韓国、チュニジア、アメリカ合衆国(ビューロー ◎議長国、○副議長国、△ラポルトゥール<書記国>)で、リトアニアが議長国(議長 H.E. Mrs Ina Marčiulionytė リトアニアのユネスコ全権大使)を務めました。気さくで、大変、チャーミングな方です。 まず、世界遺産委員会は、危機にさらされている世界遺産リストに登録されているアフガニスタンの「ジャムのミナレットと考古遺跡群」、ドイツの「ケルンの大聖堂」、コンゴ民主共和国の「ガランバ国立公園」など34物件のレビューが行われました。これらは、汚染、略奪、戦争、統制なき(無秩序)な観光、密猟など様々な原因から深刻な脅威に直面していますが、5物件が危機リストからはずれ、新たに2物件を危機リストに登載、危機遺産の数は31になりました。 危機遺産リストからの解除(5物件) 自然遺産(2物件) ●Djoudj National Bird Sanctuary (Senegal) ●Ichkeul National Park (Tunisia) 文化遺産(3物件) ●Cologne Cathedral (Germany) ●Group of Monuments at Hampi (India) ●Archaeological site of Tipasa (Algeria) 危機遺産リストへの新登録(2物件) 文化遺産(2物件) ●Dresden Elbe Valley(Germany) ●Medieval Monuments in Kosovo(Serbia) 危機リストに載ると、毎年、報告を義務づけられる為、総じて、保存管理状況は改善しています。 当初、懸念されていたドイツの「ケルンの大聖堂」の、これまで適用された事例がない「世界遺産リスト」からの抹消云々については、「新高層ビルの建設計画を縮小することをケルン当局が決定したことがケルン大聖堂周辺の管理の改善につながったこと」を理由に、逆に、危機リストから解除(除外)されることになりました。このことの背景には、不名誉な「世界遺産リスト」からの抹消を何としても避けたいドイツ、そしてケルン当局の懸命な努力があったことが認められます。 次に、既に世界遺産リストに登録されている物件の保存管理状況に関する報告が行われ、世界遺産委員会は、同じくドイツのエルベ川に橋を架けるドレスデン市の計画を避ける為に、「ドレスデンのエルベ渓谷」(2004年 文化遺産登録)の文化的景観の完全性が損なわれる深刻な影響を与えることを理由に「危機にさらされている世界遺産リスト」に登載することを決めました。計画が遂行される場合には、2007年の世界遺産リストからの抹消することを前提に危機リストに載せることを決めました。半ば、世界遺産委員会から脅迫されている恰好です。ドイツは、ケルンといいドレスデンといい「景観問題」の洗礼を受けているようです。これからも、世界の各地で予想される世界遺産地を取り巻く都市景観問題に対して、望ましいバッファー・ゾーンの設定のあり方など世界のお手本となるモデル事例を提示してもらいたいものです。 今回の世界遺産リストへの新登録ついては、下記の30か国から提出された37物件<登録範囲の拡大を含む>の候補物件(文化遺産関係 27物件、自然遺産関係 9物件、複合遺産関係 2物件)を中心に、それぞれの物件が世界遺産にふさわしいかどうか、世界遺産リストへの登録の可否が審議されました。 その結果、新たに世界遺産リストに登録された物件は、自然遺産が2物件、文化遺産が16物件の合計18物件となりました。 http://whc.unesco.org/en/newproperties/ 新たに世界遺産リストに登録された物件(18物件) 自然遺産(2物件) ●Sichuan Giant Panda Sanctuaries (China) ●Malpelo Fauna and Flora Sanctuary (Colombia) 文化遺産(16物件) ●Harar Jugol,the Fortified Historic Town(Ethiopia) ●Stone Circles of Senegambia (Gambia and Senegal) ●Chongoni Rock Art Area (Malawi) ●Aapravasi Ghat (Mauritius) ●Agave Landscape and Ancient Industrial Facilities of Tequila (Mexico) ●Kondoa Rock Art Sites (United Republic of Tanzania) ●Sewell Mining Town (Chile) ●Yin Xu (China) ●Old Town of Regensburg with Stadtamhof (Germany) ●Bisotun (Islamic Republic of Iran) ●Genoa: Le Strade Nuove and the system of the Palazzi dei Rolli (Italy) ●The aflaj irrigation system (Oman) ●Centennial Hall in Wroclaw (Poland) ●Vizcaya Bridge (Spain) ●Crac des Chevaliers and Qal'at Salah El-Din (Syrian Arab Republic) ●Cornwall and West Devon Mining Landscape (United Kingdom) 今回は、複合遺産の該当物件はありませんでした。従って、世界遺産の数は830物件(自然遺産 162物件、文化遺産 644物件、複合遺産 24物件)になりました。今回初めて世界遺産が登録された国は、「Aapravasi Ghat」が登録されたモーリシャスだけでした。 また、既に世界遺産リストに登録されている下記の物件の拡大登録についても審議されました。 フィンランドFinland The Kvarken Archipelago(High Coastの拡大登録) /スウェーデンSweden ネパールNepal Kathmandu Valley(Minor modification) セルビアSerbia Serbian Medieval Monuments on Kosovo and Metohija(Decani Monasteryの拡大登録) 登録範囲が拡大された世界遺産リスト既登録物件(4物件) 文化遺産(3物件) ●Kathmandu Valley (Nepal) ●Madriu-Perafita-Claror Valley(Andorra) ●Medieval Monuments in Kosovo(Serbia) 自然遺産(1物件) ●Kvarken Archipelago/High Coast (Finland and Sweden) 今回の会議は、一応、下記の様なスケジュールが組まれ、夜遅くまで熱心な議論が展開されることが予想されていましたが、時間管理が適切になされていた為、ほぼ予定通りのスケジュールで進行されました。諸規則の運用、IUCNやICOMOSの評価報告書の信頼性が高まっていることから、個々の物件の微視的なことではなく、、「世界遺産と気候変動に関する戦略」、「アフリカの世界遺産の現状とアフリカ版世界遺産基金の設立」、「顕著な普遍的価値(OUV)の評価」、「将来に向けてのアクション・プラン」などグローバル・ストラテジックな議論の展開がなされました。 7月8日(土) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会会合の開催、 リトアニア大統領主催レセプション(於:リトアニア国立オペラバレー劇場) 7月9日(日) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会会合 7月10日(月) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会会合、ヴィリニュス旧市街へのツアー 7月11日(火) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会会合、ヴィリニュス旧市街へのツアー 7月12日(水) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会会合、 ヴィリニュス市長主催レセプション(於:工芸美術館<旧アーセナル>) 7月13日(木) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会会合、ヴィリニュス旧市街へのツアー 7月14日(金) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会会合、ヴィリニュス旧市街へのツアー 7月15日(土) 世界遺産委員会会合、トラカイでのイベント、 リトアニア文化大臣主催レセプション(於:トラカイ城) 7月16日(日) ビューロー・ミーティング、世界遺産委員会、 リトアニア外務大臣主催閉会レセプション(於:ベルモンタスの滝) 7月17日(月) ~18 日(火) リトアニアの国立公園へのオプショナル・エクスカーション 世界遺産条約は、人類共通の遺産を守る為の国際協力を奨励することにあり、それが、批准した国際条約の意義でもあります。一堂に会する意味とそれぞれがおかれた状況を理解し、それぞれに課された使命や職責を全うするように努めたいものです。 今回の会期中も多くの方々との知遇を得ました。一堂に会する意味は、フエイス・ツー・フェイスのコミュニケーションが出来ることとサイバー空間では感じることの出来ない臨場感でしょうか。五感を揺さぶられる機会に遭遇することも珍しくありません。 尚、2007年の第31回世界遺産委員会は、2007年6月23日~7月1日、ニュージーランドの南島にあるクライスト・チャーチ(人口約40万人)で開催されることになりました。日本との関わりでは、「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産にふさわしいかどうか審議される会議になります。 今回の世界遺産委員会への参加に際して、パソコンを持っていくことにしました。世界的な高度情報化社会がどこまで進展しているのか、その実験をしてみることにしました。リトアニアも情報化が進んでいることに驚きました。日本にいるのと同じ感覚で、インターネットも見れるしE-メールも送れるし、HPの更新もリトアニアから出来ます。また、小さなカメラとイヤホーンを通じて、画像と音声によるリアルタイムのコミュニケーションが出来るではありませんか、通信費ゼロ、多少のタイムラグは有りますが、大変驚くべき情報の垣根のない時代になってきました。全世界に光ファイバー網が張りめぐらされれば、違和感のないリアルタイムのコミュニケーションが可能になることでしょう。 もう一つは、リトアニア(面積 6.5万km2、人口 約340万人、GDP 401億ドル)という国です。人口、面積を日本の都道府県(北海道の面積 8.3万km2、静岡県の人口 380万人、青森県のGDP 406億ドル)にあてはめてみると、小さな国なのかもしれません。しかしながら、一つの国として認知された自立国家です。日本という国を分国化は出来ないかもしれませんが、自立した国家レベルの道州やと都道府県が出てきてもおかしくない感覚を覚えます。中央政府に頼らない地方自治体の出現が望まれます。あらゆる税を発生地完結主義に変えてみると、これまで明らかでなかった公平、不公平の実態が明らかになるかもしれません。地勢的には、北海道(面積 8.3万km2、人口 約570万人、GDP 1,764億ドル)などが政治的にも経済的にも自立すれば、既存の国家にも負けない様にも思います。「北海道、日本から独立して、北海道という国になる」、こんな姿は、クーデーターでも起こさない限り有り得るはずのない幻想なのかもしれません。(世界遺産とは関係のない横路に反れてしまいました) 今回の新登録物件の概要等については、シンクタンクせとうち総合研究機構発行の世界遺産シリーズ、「世界遺産ガイド」、「世界遺産データ・ブック」、「世界遺産事典」の中で、逐次、ご紹介してまいります。 世界遺産総合研究所 古田 陽久 |
ご参考 |
リトアニアの概要(1) |
リトアニアの概要(2) |
リトアニアの世界遺産 |
リトアニアの世界無形文化遺産 |
フィンランド航空 |
リトアニア航空 |
ヴィリニュス国際空港 |
リトアニア観光省 |
リトアニア・ツーリズム協会 |
ヴィリニュス市 |
レヴァル・ホテル・リェトゥーヴァ |
エコテル・ヴィリニュス |
帰国報告会・エッセイ・依頼事項等について |
第27回世界遺産委員会パリ会議、第28回世界遺産委員会蘇州会議、第29回世界遺産委員会ダーバン会議に続き、第30回世界遺産委員会ヴィリニュス会議にもオブザーバー・ステイタスで、参加致します。帰国後の報告会、エッセイ等の執筆、依頼事項等がございましたら、ご連絡下さい。 |