2005年3月26日
世界遺産総合研究所 所長 古田陽久
知床のユネスコの世界遺産リストへの登録の可否が7月10日から17日まで、南アフリカのダーバン市で開催される第29回世界遺産委員会で決まる。
世界遺産になれば、わが国では、13件目の世界遺産(自然遺産では3件目)となり、北海道からは最初の世界遺産の誕生となる。
もし、世界遺産になれなければ、世界遺産にはふさわしくない、或は、登録要件を完全に満たしていないことになるので、その条件をクリアしていかなければならない。
知床は、2003年5月に、環境省と林野庁による有識者からなる「世界自然遺産候補地に関する検討会」で、小笠原諸島、琉球諸島と共に世界自然遺産候補地として選定された。
2003年10月には、三地域の関係都道府県の意見や対象地域の保護担保措置の現況等をもとに関係省庁で検討が行われ、2004年1月に知床の推薦を政府として決定、登録推薦書類を提出期限の2004年2月までにユネスコ世界遺産センターへ提出した。
そして、2005年7月の世界遺産委員会で登録の可否が決まるのであるから、登録手続きは、実にスムーズに進んだケースといってよいだろう。
この間、2004年7月に、知床が世界遺産にふさわしいかどうかの専門的な調査と評価を行うIUCN(国際自然保護連合)が専門家ミッションを現地に派遣し、そして、2004年12月にはIUCNの専門家による評価パネルが開催された。
IUCNは、最終的な結論を出すまでに、2004年11月と2005年2月の2回にわたって、バッファー・ゾーンなど世界遺産への登録範囲と保護管理措置について、環境省へ質問形式での照会を行っている。
争点になったのは、漁業や河川工作物など人間の営みや工作、そして、スケソウダラ、ホッケ、サケ、マス等の魚介類、トドやアザラシ類などの海棲哺乳類、オオワシ、オジロワシなどの鳥類など生態系の保護と生物多様性の保全についてである。
私たちの食生活にも影響する漁業は続けてもらわないと困る。一方において、乱獲、妨害、駆除等によって、生態系のバランスが崩れ、種の保存が図れないことも憂慮される。
今年から、国連の持続可能な開発の為の教育の十年(2005〜2014年)がスタートした。人類、そして、人間が生活していく為には、経済活動や開発行為は避けて通れない。しかしながら、私たちは、それらの為に、地球上の貴重な自然環境を喪失させることなく、未来へと継承していく責務がある。
持続可能な開発の為の教育とは、抽象的でわかりにくいが、知床の世界遺産登録に向けての課題そのものが、漁業という生業と海洋環境の保護のバランスのあり方、そして、問題解決策を考えるうえでの、具体的なテーマでもある様に思える。
人間と生物とが持続可能な共存と共生ができる環境を整え、恒久的な保護管理措置を講じていくことが、知床が世界遺産になる道筋であるように思う。
時おりしも、愛知万博が開幕している。愛・地球博覧のテーマは、「自然の叡智」である。地球上の総ての「いのち」の持続可能な共存と共生を図り、世界に誇れる生物多様性国家をめざしていかなければならない。
知床に続く世界自然候補地である小笠原諸島、琉球諸島も海域を含む。海洋国家日本にとって、「海洋(生物)保護法」を立法化する時期が来ている様に思う。
(古田陽久)
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