台湾にも世界遺産を!!

-世界遺産登録への道しるべ-




 世界には、数多くの国と地域がある。このうち国連に加盟している国は193か国で、専門機関の国連教育文化機関(ユネスコ)には195か国が加盟、9か国(注1)が準加盟している。ユネスコの「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」(いわゆる世界遺産条約)には、190か国が締約している。(2013年11月現在)

(注1)Anguilla (5 November 2013)、 Aruba (20 October 1987)、British Virgin Islands(24 November 1983)、 Cayman Islands (30 October 1999)、 Curaçao (25 October 2011)、 Faroes (12 October 2009)、 Macao, China (25 October 1995)、 Sint Maarten (25 October 2011) Tokelau (15 October 2001)

 現在、ユネスコの世界遺産は、160か国の981物件(自然遺産 193物件、文化遺産 759物件 複合遺産 29物件)。世界遺産条約は締約しているが、まだ、世界遺産がない国が30か国もあることになる。

 一方、世界の国と地域のうち、ソマリア、ブルンジ、東ティモール、ツバル、ナウル、リヒテンシュタイン、バハマ、台湾など世界遺産条約を締約していない国と地域がまだある。世界遺産条約は多国間条約に違いないが、世界中のかけがえのない自然環境や文化財などの遺産は、本来、全地球規模、そして、全人類的な視点で守っていかなければならないものだと思う。

 2002年12月の第26回世界遺産委員会ブダペスト会議で採択された「世界遺産に関するブダペスト宣言」は、「顕著な普遍的価値」を有する地理的にも偏りのない代表的な世界遺産リストの信頼性を高め、世界遺産の効果的な保護を確保すること、世界遺産条約の趣旨を理解し世界遺産リストへの登録準備を含めた効果的な可能性の手法開発を促進すること、コミュニケーションを通じての世界遺産への関わりや支援など社会認識を高めることなどを趣旨としている。

 前述した世界遺産条約を締約していない国と地域の一つに台湾が挙げられる。台湾は世界遺産条約を何故に締約していないのか、或は、締約できないのか、打開策はないのだろうか。

 台湾の世界遺産候補地をユネスコの世界遺産に登録する方法論としては、下記が考えられる。

 ①台湾が独自に世界遺産条約を締約すること。(この場合には、ユネスコへの加盟が前提になる)(注2)
 ②中国が台湾の世界遺産候補地を自国の世界遺産暫定リストに、まず、記載すること。

 ①②、いずれの場合においても、中国と台湾との間での解決が前提になるが、紛糾に至る可能性がある。

 ①中国(中華人民共和国)は、「中華民国」ではなく「台湾」であれば、容認するのか?
 ②台湾は、中国の一つの省としての「台湾省」を容認するのか?

(注2)1971年10月25日の第2758号決議(俗に「アルバニア決議」)で、中国の代表権が「中華民国」から「中華人民共和国」に移された。この為、常任理事国だった「中華民国」は、事実上、国連から追放され、国連から脱退した。以後、国連への加盟は、たとえ「台湾」名義であってもこの第2758号決議を理由に実現していない。ユネスコなど国連の諸専門機関についても同様。

 いずれにせよ、国際社会は、台湾の世界遺産候補地を、そのまま放置しておいて良いのか、地球史上、人類史上、国際的な枠組みのなかで、あらゆる脅威や危険から守っていかなければならない世界遺産級の資産はないのか、地球市民としての視点が求められる。

 これは、いわゆる「世界遺産」(世界遺産条約)に限らず、人類の創造性と文化の多様性を代表する伝統芸能、伝統工芸技術、社会的慣習、儀式及び祭礼行事などの「世界無形文化遺産」(無形文化遺産保護条約)、世界的な重要性を有する文書、絵画、記念碑などの「世界記憶遺産」(世界の記憶プログラム)についても、同様のことが言える。

 グローバルな視点では、地理的な偏りを解消することが望ましいが、国家のテリトリーは、領土、領海、領空に及ぶ、境界も含めて、複雑な問題を孕んでいる。しかしながら、長年、イスラエルとの間で紛争が絶えない「パレスチナ」(注3)の様に、独立国家として国際社会で認知され、世界遺産登録も実現している事例もある。


(注3)2010年12月、南米のブラジル、アルゼンチン、ウルグアイが相次いで国家としてのパレスチナを承認することを表明。
2011年9月23日 国際連合への加盟申請、安保理が好意的に検討することへの期待を表明。
2011年10月31日 ユネスコの加盟国として承認される。(棄権を除く2/3の賛成が必要)
               <採決>賛成:107(アラブ諸国、中国、インド、フランス、スペイン等)、 
                     反対: 14(米、イスラエル、ドイツ等)、
                     棄権: 52(日本等)
2011年12月8日 世界遺産条約、無形文化遺産保護条約を批准。
2012年7月6日 第36回世界遺産委員会サンクトぺテルブルク会議で、
              「イエスの生誕地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼の道」が 「世界遺産リスト」と
              「危機にさらされている世界遺産リスト」(建物の損傷・劣化、民族紛争、宗教紛争)に同時登録。
               <採決>(秘密投票) 下記は、「エルサレム・ポスト」紙による
                     賛成:13(アルジェリア、フランス、インド、イラク、マレーシア、マリ、メキシコ、カタール、
                            ロシア、セネガル、セルビア、南アフリカ、アラブ首長国連邦) 
                     反対: 6(エチオピア、日本、スイス、エストニア、コロンビア、ドイツ)、
                     棄権(白票): 2(カンボジア、タイ)
2012年11月29日  国連総会でパレスチナを「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に
                 格上げする決議案が採択される。
               <採決>賛成:138(日、仏、伊、露、アラブ諸国等)、 
                     反対: 9(米、イスラエル、加等)、
                     棄権: 41(英、独、蘭、豪、韓、東欧諸国等)

 私は、中国と台湾の両方に、これまでお世話になってきた。オールタナティブということではなく、両者の関係が上手くいく方法は、ないものだろうか。世界で国家と認められている国は、大小さまざまである。台湾は、国家としての自立性という観点からは、立派な国家である。しかしながら、政治的な歴史を調べて見ると、なかなか簡単ではない経緯がある。

 中国は1985年に、世界遺産条約を批准(世界で87番目)、世界遺産の数は、2013年11月現在、45(自然遺産 1 文化遺産 31 複合遺産 4)で、イタリアの49に続いて、世界で第2位である。中国は、国土面積も広く、5000年ともいわれるその古い歴史から、今後、世界遺産登録される物件のポテンシャルも大きく、いずれ世界一の世界遺産大国になると思う。

 2014年の第38回世界遺産委員会ドーハ会議(カタール)では、中国関係では、3つの物件が審議の対象になり、いずれも、認められた。新登録では、中国の北京から杭州までを結ぶ総延長2500kmに及ぶ大運河「京杭大運河」、それに、キルギス、中国、カザフスタンの3か国にまたがるシルクロードの「天山回廊」の2物件。それに、2007年に世界遺産登録された自然遺産の「中国南方カルスト」の登録範囲の拡大である。

 中国は、地理的にも、歴史的にも、偏りがない様に、多様な物件を世界遺産に登録してきており、また、世界無形文化遺産の数も37(代表リスト 29 緊急保護リスト 7 ベスト・プラクティス 1)で、世界1位、世界記憶遺産の数は9である。今後も、それぞれの数は増えていくと思われ、まさに、中国は、「世界遺産学」の宝庫なのである。

 一方、私と台湾との関わりは、1冊の本が縁を取り持った。日本国内で、ユネスコの世界遺産登録への関心が高まっていた1990年代の後半、「世界遺産Q&A 世界遺産化への道しるべ」という本を、1998年10月に出版。(下記の写真左) 3年後の2001年9月には改訂版の「世界遺産Q&A-世界遺産の基礎知識-2001改訂版」(下記の写真中)を出版した。

 この本が、訪日中の台湾の大学教授(当時は米国の大学教授)の目にとまり、台湾当局に、紹介され、その後、2003年の年初だったと思うが、台湾での世界遺産教育の教材に使用したいので、台湾語版で出版したいとの英文のEメールが届いた。

 その後、2003年3月、台北市での関係者との打ち合わせ、そして、2003年の秋に、中華民国文化台湾発展協会と行政院文化建設委員会から出版された。(下記の写真右)

 当時は、私が住んでいる広島から台湾に行く場合は、広島空港からの直行便がなかったが、今は、チャイナ・エアラインズが乗り入れており、台湾に行くのも便利になった。

 こうした一冊の本からのご縁を、これからも大切にしていきたいと思う。

 この本が、台湾での世界遺産研究や世界遺産教育に、どれだけ役に立ったのかは知る由もないが、下記の通り、台湾の世界遺産候補地の選定や環境整備も、着実に進んでいる様だ。これらの中には、日本が台湾を統治していた時代<1895年(明治28年)4月17日~1945年(昭和20年)10月25日の約50年間>のものも多い。18の世界遺産候補地の中には、玉山(3952m、旧称は新高山<ニイタカヤマ>(注4)) の様に古くから有名なもの、また、太魯閣渓谷、阿里山森林鉄道、淡水の様に日本からの台湾への観光でも良く知られているものもあれば、初めて聞くものも多い。

(注4)台湾には、玉山(3,952m)、雪山(3,886m)、秀姑巒山 (3,825 m)など高山が多く、日本の「富士山」(3776m)は、台湾統治時代には、
     日本で4番目に高い山であった。

 果たして、世界に通用する「顕著な普遍的価値」を有するものなのかどうか、まずは、

 それぞれの世界遺産候補地の魅力を知り、出来れば、実際に現地を訪ねてみることが大切であり、「世界遺産学」と「台湾学」を深めていく必要がある。

 また、ここ10年間に、ユネスコの遺産事業も、広がりを見せている。自然遺産や有形の文化遺産だけではない。

 世界無形文化遺産、世界記憶遺産の分野についても、重層的に候補となりうるものを選定しておくことも必要である。

 折りしも、2013年10月15日、「日本から台湾の世界遺産登録を応援する会」の代表理事の辛正仁氏から、一通のメールをいただいた。
この夏に、社団法人格の「日本から台湾の世界遺産登録を応援する会」が設立され、政治色をつけず、台湾を愛する市民の気持ちを原動力にして、日本からの応援活動を行っていきたいとのことであった。

 具体的には、台北駐日経済文化代表処の協力を得て、11月29日~12月1日に都内での「知られざる台湾世界遺産候補地の魅力展」の開催、そのほか、専門家による、台湾の世界遺産候補地についての二国間での研究やセミナーの開催を目指されているという。

 日本には、台湾ゆかりの人が多いので、こうした試みを、東京だけではなく全国的、それに、国際的(注5)にも広げていくことが重要である。


(注5)台湾と外交関係のある国(23か国) 大洋州(6ヵ国)ツバル、ソロモン諸島、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国、
     キリバス共和国、ナウル共和国、欧州(1ヵ国)バチカン、中南米・カリブ(12ヵ国)パナマ、ドミニカ共和国、グアテマラ、
     エルサルバドル、パラグアイ、ホンジュラス、ハイチ、ベリーズ、セントビンセント、セントクリストファー・ネーヴィス、
     ニカラグア、セントルシア、アフリカ(4ヵ国)スワジランド、ブルキナファソ、ガンビア、サントメ・プリンシペ

 世界遺産条約の理念と目的は、世界的に「顕著な普遍的価値」を有する自然遺産および文化遺産を人類全体のための世界遺産として、破壊、損傷等の脅威から保護・保存することが重要であるとの観点から、国際的な協力および援助の体制を確立することであることを忘れてはならない。

 台湾世界遺産登録への道は、決して平坦ではないが、国際平和への道でもある。台湾への恩返しへの気持ちもあり、こうした試みに、賛同し、ご協力することにした。これまでの経緯については、「日本から台湾の世界遺産登録を応援する会」の理事の平野久美子さんの「正論」誌の記事がわかり易い。また、広報、署名活動を通じ、国際社会を動かし、日本から台湾の世界遺産登録の実現に向けて応援したいというのが、会の趣旨である。

 2013年11月29日、アーツ千代田3331での基調講演のご依頼を受け、また、ビジョン・ミーティングにも臨席させていただいた。このイベントに参加して感じたこと、思ったことは、

 結論として、日中の外交関係が上手くいっていないこの時期に、こうした運動を行うことは正論ではなく、中国側に、大きな誤解を生じさせる大いなる懸念があり、国際平和どころか、紛争の火種にもなりかねないことである。台湾の世界遺産候補地を、今後どうするのかは、あくまでも、中国と台湾との間の課題であり、両者が協議して決めるべきことである。従って、日本は、民間も含めて、このことに深く介在すべきではないと思う。従って、ネットでの広報、署名活動、特に募金活動等は、誤解、トラブル、失礼の原因にもなりかねないので、自重されることが望まれる。

 折りしも、2014年6月15日、嘉義県政府の意向を受けてか、台湾の王新衡氏(輔仁大学・非常勤助理教授 東京大学工学博士)から、一通のメールをいただいた。台湾が世界遺産登録をめざしている「阿里山森林鉄道」の視察会と保全計画の検討会、それに、日本の世界遺産の登録事例等についての私の講演会、嘉義県政府との交流会などからなる国際ワークショップ(主催・嘉義県政府文化観光局 共催・国立雲林科技大教授研究室) を今秋に実施するので、協力して欲しい旨の要請を受け、2014年9月30日~10月4日の5日間、訪台した。

 「阿里山森林鉄道」(阿里山森林鉄路)は、全長約 71.4kmで、海拔30mの嘉義北門駅から 海抜2216mの阿里山駅まで、合計17個の駅に停車、乗車時間は約3時間20分。鉄道が通過する地形は大まかに平地と山地に分けられる。

平地は嘉義北門駅から竹崎駅までで、約 14.2km。竹崎駅から斜面を登りはじめ、ゆっくりと重なる嶺の間を登って行く。ここからは傾斜度が大きく、回転半径は小さくなり、通過する橋梁やトンネルは非常に多くなる。

 獨立山のスイッチバック方式の鉄道風景はとても珍しい。これに高山の景観が加わり、阿里山森林鉄路は国際的な旅行スポットとなっている。

 「阿里山森林鉄道」がユネスコの世界遺産級にふさわしいかどうかは、その世界的な「顕著な普遍的価値」を証明しなければならない。必要条件として、世界遺産の登録基準を一つ以上を満たすこととその根拠の説明、十分条件として、真正性、完全性の証明、他の類似物件との比較分析などが求められなど必要十分条件を満たす必要がある。

 ユネスコの「世界遺産リスト」には、多様なものが登録されているが、鉄道遺産については、次の3件が登録されている。

 ○センメリング鉄道 (Semmering Railway)  登録面積 156ha  バッファーゾーン 8,581ha
   文化遺産(登録基準(ii)(iv)) 1998年 オーストリア
 ○インドの山岳鉄道群(Mountain Railways of India)   登録面積 89ha  バッファーゾーン 645ha
   文化遺産(登録基準(ii)(iv)) 1999年/2005年/2008年 インド
 ○レーティッシュ鉄道アルブラ線とベルニナ線(Rhaetian Railway in the Albula/Bernina Landscapes) 
   登録面積 152ha  バッファーゾーン 109,386ha
   文化遺産(登録基準(ii)(iv)) 2008年 イタリア/スイス



 センメリング鉄道(Semmering Railway)は、ウィーンの森の南方のニーダエステライヒ州にある山岳鉄道。センメリング鉄道は、18481854年にかけて、エンジニアのカール・リッター・フォン・ゲーガ(18021860年)の指揮のもとに建設された。センメリング鉄道は、ミュルツツシュラーク(グラーツ方面)とグロックニッツ(ウィーン方面)の間の41kmを切り立った岩壁と深い森や谷を縫って走る。ヨーロッパの鉄道建設史の中でも画期的な存在で、土木技術の偉業の一つと言える産業遺産。当時は、標高995mのセンメリング峠を超えるのは、物理的にも困難だったが、勾配がきつい山腹をS字線やオメガ線のカーブで辿ることにより、また、センメリング・トンネル(延長1.5km、標高898m)を通したり、クラウゼルクラウゼ橋やカルテリンネ橋など二段構えの高架の石造橋を架けることによって、それを解決した。この鉄道の開通によって、人々は、シュネーベルク(2076m)やホーエ・ヴァント(1132m)などダイナミックな山岳のパノラマ景観や自然の美しさを車窓から眺めることが出来る様になった。また、かつては、貴族や上流階級のサロンであったジュードバーン、パンハンス、エルツヘルツォーグヨハンなど由緒あるホテルの遠景も、新しい形態の文化的景観を創出している。




 インドの山岳鉄道群(Mountain Railways of India)は、ダージリン・ヒマラヤ鉄道 (DHR)とニルギリ山岳鉄道(NMR)、カルカ・シムラー鉄道(KSR)からなる。ダージリン・ヒマラヤ鉄道は、インド北西部シッキム州のネパール国境とブータンの近くを走る1881年に開通した世界最古の山岳鉄道で、ダージリンとニュー・ジャルパイグリ駅の83kmを結ぶ。急勾配や急カーブなどにも小回りが利くように線路の幅が2フィート(61cm)と狭いのが特徴。美しいダージリン丘陵とヒマラヤ山脈の山間部を走るトイ・トレイン(おもちゃの列車)は、技術的にも優れた世界的な名声を博する産業遺産で、カンチェンジュンガ(8586m)の山々などヒマラヤ山脈のすばらしい自然景観と共に旅行者の目を楽しませている。ダージリンは標高2134mの高原リゾート地で、ダージリン茶の産地としても知られている。ニルギリ山岳鉄道は、インド南部タミール・ナドゥ州のメットゥパーヤラムとウダガマンダラム(旧ウーティ)を結ぶ。約17年間の工期をかけて1908年に完成した全線46km、標高326mから2203mへと走る単線の山岳鉄道で、英国植民地時代から人の移動や地域開発に重要な役割を果たしてきた。また、カルカ・シムラー鉄道は、デリーの北部約200kmのヒマーチャル・ブラデーシュ州の州都シムラーとハリヤーナ州のカルカを結ぶ96kmの単線で、1903年に供用が開始された。インドの山岳鉄道群は、1999年に「ダージリン・ヒマラヤ鉄道」として登録されたが、20057月の第29回世界遺産委員会ダーバン会議で、ニルギリ山岳鉄道も含めたことにより、登録遺産名も変更され、さらに、2008年の第32回世界遺産委員会ケベック・シティ会議で、カルカ・シムラー鉄道が追加登録された。




 レーティッシュ鉄道アルブラ線とベルニナ線の景観群(Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Landscapes)は、スイスとイタリアにまたがるスイス・アルプスを走る2つの歴史的な鉄道遺産である。レーティッシュ鉄道の北西部、ライン川とドナウ川の分水嶺でもあるアルブラ峠を走るアルブラ線は、1898年に着工し、1904年に開通した。ヒンターライン地方のトゥージスとエンガディン地方のサン・モリッツの67kmを結び、ループ・トンネルなど42のトンネル、高さ65mの印象的なランドヴァッサー橋などの144の石の高架橋が印象的である。一方、ベルニナ峠を走るベルニナ線は、サン・モリッツからイタリアのティラーノまでの61kmを結び、13のトンネルと52の高架橋が特徴である。ベルニナ鉄道(現在のレーティッシュ鉄道ベルニナ線)は、歯車を使ったラック式鉄道ではなく、一般的なレールを使った鉄道で、アルプス最高地点を走る鉄道として、すぐにその技術が大きな話題となり、後につくられるさまざまな鉄道計画のモデルになったといわれている。万年雪を冠った標高4000m級のベルニナ山脈の名峰や氷河が輝くスイス・アルプスの世界から、葡萄畑や栗林に囲まれた素朴な渓谷を越えるイタリアまでの縦断ルートである。標高2253mから429mまで、1824mの高低差を克服、驚くべき絶景が連続的に展開する。レーティッシュ鉄道は、20世紀初期から約100年の歴史と伝統を誇るグラウビュンデン州を走るスイス最大の私鉄会社で、アルプスの雄大な大自然を破壊することなく切り開き、山岳部の隔絶された集落を繋ぎ生活改善を実現した鉄道利用の典型である。レーティッシュ鉄道は、驚異的な鉄道技術、建築、環境が一体的であり、その鉄道と見事に共存しつつ現代に残された美しい景観は周辺環境と調和すると共に建築と土木の粋を具現化したものである。レーティッシュ鉄道は、最も感動的な鉄道区間として、今も昔も世界各地からの多くの観光客に親しまれており、最新のパノラマ車両も走る人気の絶景ルートであるベルニナ・エクスプレス(ベルニナ急行)の路線で、グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)の一部区間でもある。レーティッシュ鉄道ベルニナ線は、箱根登山鉄道と姉妹鉄道提携をしている。


 これら3件に共通するのは、登録基準の(ii)(iv)が適用されている。

 登録基準の(ii)は、ある期間を通じて、または、ある文化圏において、建築・技術、記念碑的芸術、町並み計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
 登録基準の(iv)は、人類の歴史上、重要な時代を例証する、ある形式の建造物、建築物群、技術の集積、または、景観の顕著な例。






                                                   (古田陽久



2014年10月2日 阿里山森林鉄道視察

嘉義県政府張花冠知事から嘉義県世界遺産顧問の委嘱状

2014年10月3日 「阿里山と世界遺産」国際ワークショップ







台湾の世界遺産候補地

①太魯閣(Taroko)
 国家公園
花蓮県 太魯閣渓谷はU字型の石灰岩渓谷であり、世界でも最大級の大理石渓谷
②棲蘭山(Chilan-shan)
 檜木林
宜蘭県 東アジア最大面積の針葉樹林 
③大屯(Tatun)火山群 台北市 200万年以上火山爆発、造山運動を繰り返し、今日の姿を形成。
④澎湖(Penghu)玄武岩
 自然保護区
澎湖県 玄武岩の自然保護区 
⑤玉山(YuShan)国家公園 南投県 台湾の中央山脈にそびえる東北アジア一の玉山(3952m、旧称が新高山) 
阿里山(Alishan)
 森林鉄道 

嘉義市、嘉義県 東アジア一の最高海抜(2451メートル)を走る登山鉄道 
⑦台湾鉄道旧山線  台中市、苗栗県 1908年(明治41年)に苗栗県三義から台中の后里まで全長15,9kmを結んだ旧山線 
⑧卑南(Pei-Nan)遺跡
 及び都蘭山
台東県 石棺、玉器などが出土した大規模な集落遺跡
⑨淡水紅毛城及び周辺の
 歴史建築群
新北市 漢民族の開拓、開港貿易後の西洋文化の影響を受けた建築物群
⑩金瓜石(Chinkuashin) 集落   新北市 北部の新北市にある銅と金の採掘場の集落遺跡 
⑪金門(Kinmen)の
 戦地文化
金門県
1500年来の移民活動と密接な関係がある。
⑫蘭嶼(Lanyu)島の
 集落及その自然景観
台東県 タオ族(ヤミ族)の独特な建築文化
⑬楽生(Losheng)療養院 新北市 台湾総督府が1930年(昭和5年)年に建てたハンセン病患者の隔離治療施設
⑭桃園(Taoyuan)台地の 陂塘 桃園県
灌漑用の約3000個の陂塘と何千もの人工湖
⑮烏山頭(Wushantou)ダム
 及び嘉南(Jianan)
 大用水路  
台南市 日本統治時代、不毛だった嘉南平野を肥沃な大地に変えた画期的なダム。台湾総督の八田與一技師(出身地金沢市)が設計した。
⑯屏東排湾(パイワン  
 Palwan and Rukai)族
 の石板屋集落
屏東県 1905年(明治38年)に、日本の民俗学者鳥居龍蔵によって文化的価値が高く評価された。
⑰澎湖(Penghu)石滬群 澎湖県

黒い玄武岩と白い珊瑚礁を組み合わせた石滬漁法跡

⑱馬祖(Matsu)の
 戦地文化
連江県 冷戦時代の戦地文化景観





2013年11月29日 アーツ千代田3331での講演







2013年11月29日 アーツ千代田3331でのビジョン・ミーティング







参考文献


 世界遺産データ・ブック-2014年版-   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界無形遺産データ・ブック-2013年版-   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界記憶遺産データ・ブック-2013~2014年版-   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界遺産事典-981全物件プロフィール-2014改訂版   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界遺産マップス-地図で見るユネスコの世界遺産-2014改訂版 
   シンクタンクせとうち総合研究機構発行
 世界遺産ガイド-自然遺産編-2013改訂版   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界遺産ガイド-複合遺産編-2013改訂版   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界遺産ガイド-文化遺産編-2013改訂版   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界遺産ガイド-危機遺産編-2013改訂版   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界遺産ガイド-中国編-2010改訂版    シンクタンクせとうち総合研究機構 発行
 世界遺産ガイド-日本編-2014改訂版   シンクタンクせとうち総合研究機構 発行





わが国自治体と台湾自治体との姉妹都市関係
県名 自治体名称 提携自治体名 州・省・県等名
北海道 津別町  二水郷  彰化縣 
青森県 大間町  虎尾鎮  雲林縣 
秋田県 上小阿仁村  萬巒郷  屏東縣 
秋田県 美郷町  瑞穂郷  花蓮縣 
福島県 玉川村  鹿谷郷  南投縣 
東京都 八王子市  高雄市   
福井県 美浜町  石門郷   
長野県 松川村  鹿港鎮  彰化縣 
岐阜県 美濃市  高雄市美濃区   
鳥取県 北栄町  大肚郷  台中縣 
岡山県 岡山市  新竹市   
徳島県 牟岐町  埔塩郷   
沖縄県 石垣市  蘇澳鎮  宜蘭縣 
沖縄県 与那国町  花蓮市  花蓮縣 
姉妹(友好)山関係
富士山(標高3776m) 玉山(標高3952m)
日本富士山協会(富士吉田市) 中華民国山岳協会










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