世界農業遺産
世界重要農業遺産システム(GIAHS)





 世界農業遺産とは、世界経済の発展及び人類の飢餓からの解放を目的とする国連食糧農業機関(FAO 本部イタリア・ローマ)が2002年に開始したプログラムで、ユネスコの世界遺産条約の樣な多国間条約とは異なる。

 正確には、世界重要農業遺産システム(Globally Important Agricultural Heritage Systems 略称GIAHS ジアス)のことで、伝統的農業、農業文化資産、それに、それを取り巻く生物多様性の保全と活用を目的として認定されるプログラムである。

 GIAHSのパイロット事業には、2011年6月13日現在、次の12件が認定されている。

ケニア・タンザニア Pastoral and Upland Agroecosystem (遊牧と高地農業生態系) マサイ・タバド族
アルジェリア・チュニジア
 Oases of the Maghreb(マグレブのオアシス群)
                 アルジェリア・ガルダイア県ムザブ
                 チュニジア・ガフサ県
インド Saffron Heritage System of Kashmir(カシミールのサフラン遺産システム) New 
      ジャンムー・カシミール州
フィリピン 
Ifugao Rice Terraces(イフガオ族の棚田群)  
        イフガオ州

中国
 Rice-Fish Agriculture(水田養魚農業)  
   浙江省
麗水市青田県
中国 Hani Rice Terraces System(ハニ族の棚田群のシステム)  
    雲南省ハニ族イ族自治州紅河県、元陽県、緑春県、金平県
中国 Wannian traditional rice culture system(万年の伝統的な稲作文化の仕組み)  
    江西省上饒市万年県
中国 Dong’s Rice Fish Duck System(トン族の稲作・養魚・養鴨システム) New 
    貴州省従エ県
日本 Noto’s Satoyama and Satoumi(能登地域の里山里海) New 
    石川県七尾市 、輪島市、珠洲市、羽咋市、志賀町 
    白米の千枚田(輪島市 国の名勝)、揚浜式製塩技術(国重要無形民俗文化財)
    農耕儀礼の「あえのこと」(国の重要無形民俗文化財)、「出会いの虫送り」など
日本 Sado’s Satoyama with Ibis(トキと共生する佐渡地域の里山) New 
    新潟県佐渡市

    
トキ(国の特別天然記念物)の餌場を守る減農薬農業など生態系と共生する農業
ペルー
 Andean Agriculture(アンデス農業)  古代バレイショ農法 
    クスコ県、プーノ県
チリ  Chiloe Agriculture(チロエ農業)  チロエ、ウリーチェ族、メスティーソ  バレイショ生産
    ロス・ラゴス州チロエ島 
 
 これらのうち、フィリピンのIfugao Rice Terraces(イフガオの棚田)は、1995年に、Rice Terraces of the Philippine Cordilleras(フィリピンのコルディリェラ山脈の棚田群)としてユネスコの「世界遺産リスト」に登録されているが、体系的な監視プログラムや総合管理計画が欠如している為、2001年に「危機遺産リスト」にも登録されている。

 中国のHani Terraces(ハニ族の棚田群)とDong Nationality Villages in Southeast Guizhou Province-Liudong and Jiudong Villages-(貴州省南東のトン族の村落-六洞と九洞−)は、これから世界遺産登録をめざす世界遺産暫定リストに登録されている。

 ユネスコの世界遺産は、各分野を代表する世界的に「顕著な普遍的価値」を有する多様な自然遺産や文化遺産が、「世界遺産リスト」に登録されている。世界遺産暫定リスト記載物件も、国別だけではなく、関係機関が分野別に世界の各地に蓄積され他の模範となる代表的な遺産を収集する試みも大切であると思う。

 また、フィリピンのイフガオ族の伝統的な田植え歌である、Hudhud Chants of the Ifgao(イフガオ族のフドフド詠歌)は2008年に、中国のGrand song of the Dong ethnic group(トン族の大歌)と日本のOku-noto no Aenokoto(奥能登のあえのこと)は、2009年に世界無形文化遺産の「代表リスト」にも登録されている。

 日本の2つの農業遺産が
GIAHSのパイロット事業に加わることの意義としては、日本の農村に広がる独特の里山(Satoyama)や里海(Satoumi)を国際社会にアピールする絶好の機会であり、世界の他のGIAHSのパイロット事業認定地域が抱える課題や問題点を共有できる国際ネットワークの形成と、世界の農業の模範となる、未来世代に、誇りをもって、引き継げる持続可能な農業システムを構築していくことが重要である。

 
その為には、農法や土地利用などの伝統的知識、農業景観、農耕儀礼などの農村文化を守り、生態系や生物多様性などの自然環境が損なわれることがない樣な持続的な取組みが必要である。

 従って、農業従事者の高齢化に伴う離農や耕作放棄などの問題が生じない樣に、若者にとっても後継することに誇りの持てる農業であり、魅力のある農村、自然と人間とがつくりあげた里山などの農村環境など持続可能な地域づくりが必要である。


 
その為にも、世界農業遺産地で生産される輪島市の「白米千枚田」産の米、七尾市沢野町の「沢野ごぼう」、志賀町倉垣の「ころ柿」など農産物のブランド化、環境教育、滞在型のアグリツーリズム、エコツーリズムなどの観光への利活用が期待される。

 尚、GIAHSのプロジェクト・パートナーには、下記の国際的な諸機関が参画している。

  CBD -Secretariat(生物多様性条約事務局)
  CGIAR( 国際農業研究協議グループ)
  ICCROM (国際文化財保存修復センター)
  IFAD (国際農業開発基金)
  IUCN (国際自然保護連合)
  UNCCD (国連砂漠化対処条約)
  UNDP (国連開発計画)
  UNEP-Secretariat (国連環境計画事務局)
  UNESCO (国連教育科学文化機関)
  UN Permanent Forum on Indigenous Issues(国連先住民族問題常設 フォーラム)
  The World Bank(世界銀行)








                                                                 古田陽久
















参考文献
世界遺産データ・ブック 2011年版
世界遺産ガイド−暫定リスト記載物件編−
世界遺産事典 −911全物件プロフィール−2011改訂版
世界遺産ガイド −世界遺産の基礎知識−2009改訂版
世界遺産キーワード事典 2009改訂版
世界遺産ガイド −文化遺産編−2010改訂版
世界遺産ガイド −産業遺産編 −
世界遺産ガイド −文化的景観編−
世界遺産ガイド −北東アジア編 −
世界遺産ガイド−中国編−2010改訂版
世界遺産ガイド−東南アジア編−
世界遺産入門 −ユネスコから世界を学ぶ−
世界無形文化遺産データ・ブック 2011年版







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