第32回世界遺産委員会ケベック・シティ会議 日本の「平泉」は、残念ながら、決議案の文言を一部修正して、「登録延期」 新登録物件27物件(自然遺産8物件、文化遺産19物件) 最新のユネスコ世界遺産878物件(自然遺産174物件、文化遺産679物件、複合遺産25物件) 初出国 パプア・ニューギア、サン・マリノ、サウジ・アラビア、ヴァヌアツ 第33回世界遺産委員会は、スペインのセビリア |
世界遺産条約締約国 | |||
185か国 | |||
2008年7月1日現在 | 第32回世界遺産委員会 |
2008年7月10日現在 | |
自然遺産 | 166(3) | 8 | 174(3) |
文化遺産 | 660(11) | 19 | 679(11) |
複合遺産 | 25(0) | 0 | 25(0) |
合 計 | 851(14) | 27 | 878(14) |
危機遺産 | 30(0) | 0 | 30(0) |
(注)( )内の数字はわが国の物件数 |
2008年7月2日から10日まで、カナダ(首都 オタワ)のケベック・シティのケベック・シティ・コンベンション・センターで、ユネスコの第32回世界遺産委員会が開催されました。セントローレンス川が流れる城砦都市ケベック・シティ(人口 約53万人 日本との時差 夏 13時間)は、ケベック州の州都で、1985年にユネスコの「世界遺産リスト」に登録された「オールド・ケベックの歴史地区」のある世界遺産都市です。 世界遺産委員会は、185か国の世界遺産条約締約国から選任された21か国の締約国。第32回世界遺産委員会の委員国は、オーストラリア、エジプト、ナイジェリア、バーレン、イスラエル、ペルー、バルバドス、ヨルダン、韓国、ブラジル、ケニア、スペイン、カナダ(議長)、マダガスカル、スウェーデン、中国、モーリシャス、チュニジア、キューバ、モロッコ、アメリカ合衆国 、議長国は、カナダ、クリスティーナ・キャメロン氏(Mrs. Christina Cameron)が議長を務めました。ビューロー(幹事国)は、議長国のカナダ、副議長国のイスラエル、ペルー、韓国、ケニア、チュニジアの副議長国、ラポルチュール(書記国)のバルバドスの7か国から構成され、予定通りの議案をこなし、7月10日に閉会しました。 わが国にとっては、最大の関心事であった「平泉−浄土思想を基調とする文化的景観」の世界遺産登録は、国際的な理解を得られず、残念ながら、今回は実現しませんでした。イコモス(国際記念物遺跡会議)が威信をかけて世界遺産委員会に諮問した少し意地悪な内容を含む勧告通りの決議案の内容を巡って審議がなされた結果、文言の一部を修正?するに留まり、結果的に、登録延期の決議となりました。この辺のビューローを含めた世界遺産委員会のメンバー、事務局のユネスコ世界遺産センターを通じた裏舞台での推薦締約国日本と信頼を取り戻したい評価機関ICOMOS との角逐は、想像以上であった様に思えました。 「平泉」が世界遺産にふさわしいかどうかの審議は、2008年7月6日(日曜日)、現地時間の19時57分、イコモスのスーザン・ダニエル(Susan Denyer)のプレゼンに始まり、20時5分から、議長のクリスティーナ・キャメロン氏の議事進行で、約31分間の審議、12か国の委員国から27回の発言が行われました。審議の結果を踏まえ、ラポルチュール(書記国)のバルバドスのアレッサンドラ・カミンズ氏が決議案の一部を修正、議長のクリスティーナ・キャメロン氏は、この修正決議案を採択し、20時36分に結審しました。この間、39分間の筋書きのない?ドラマであった様に思います。 2011年の世界遺産登録の実現をめざして、「平泉」は再出発することになりますが、日本文化を代表する独自性のある「平泉」の特色、特性、特徴を、国際比較の中で、もっとわかり易く、国際社会にアピールしていく必要がある様に思います。なかでも、いずれも該当しないと評価されている世界遺産登録の必要条件である登録基準を一つ以上満たす根拠を明確にし、歴史的な価値、文化の交流、精神的な意義をあらわす構成資産の相互の関わりや脈絡を整理し「平泉物語」を再構築することが求められます。 2011年、誇れる郷土に錦を飾って欲しいと思います。
一方、カンボジアのプレア・ヴィヒア寺院(Preah
Vihear Temple)。プレア・ヴィヒア寺院は、カンボジアとタイとの国境、カンボジア平野の高原の端にあるヒンズー教の最高神シヴァ神を祀る聖域を形成する宗教建築物群です。プレア・ヴィヒア寺院は、11世紀の前半、クメール王朝のスーリヤヴァルマン2世の時代に建設されましたが、その複雑な歴史はクメール王国が創建された9世紀に遡ります。
プレア・ヴィヒア寺院は、カンボジアとタイの国境に位置し、長年両国間でその領有権が争われてきましたが、国際司法裁判所が1962年にカンボジア領と判断していました。プレア・ヴィヒア寺院の世界遺産登録を巡って、両国の摩擦が再燃、タイ政府は、カンボジア政府による登録申請に一旦は合意していたものの、タイの野党や市民団体が激しく反発、行政裁判所が政府決定を差し止めていました。 タイ側では、カンボジア単独での世界遺産登録に反発する声が依然根強く、容認したノパドン外相は国内批判を受けて、奇しくも、今回の世界遺産委員会の最終日の2008年7月10日、辞任に追い込まれてしまいました。新たな国境紛争へと発展することも懸念されます。 世界遺産には、本来、国境がないはずですが、現在の国境や領有権が、しばしば、古き良き時代の一連の文化遺産を分断させたり、国境紛争の火種になったりすることは、先人にとって、大変、悲しいことだと思われます。 |
登録関係審議対象物件 47物件(この内5物件は事前撤回、登録範囲の拡大 5物件を含む) 全体 新登録関係 37物件(新規 31物件 前年度以前 6物件) 登録範囲の拡大 5物件 撤回 5物件 合計47物件 新登録 27物件(新規 23物件 前年度以前 4物件) 登録範囲の拡大 4物件 新登録採択率(登録範囲の拡大は除く) 27/42(撤回含む)=64.3% 27/37(撤回除く)=73% 自然遺産関係 新登録関係 9物件(新規 8物件 前年度以前 1物件) 登録範囲の拡大 1物件 撤回 3物件 合計 13物件 新登録 8物件(新規 7物件 前年度以前 1物件) 登録範囲の拡大 0物件 新登録採択率(登録範囲の拡大は除く) 8/12(撤回含む)=66.7% 8/9(撤回除く)=88.9% 文化遺産関係 新登録関係 28物件(新規 23物件 前年度以前 5物件) 登録範囲の拡大 4物件 撤回 2物件 合計 34物件 新登録 19物件(新規 16物件 前年度以前 3物件) 登録範囲の拡大 4物件 新登録採択率(登録範囲の拡大は除く) 19/30(撤回含む)=63.3% 19/28(撤回除く)=67.9% |
Natural properties submitted for inscription to the World Heritage List: (13物件) <新登録関係 8物件> Socotra Archipelago (Yemen) I → I 生物多様性 Mount Sanqingshan National Park (China) I → I 自然景観 Hovsgol Lake and its Watershed (Mongolia) N → N Saryarka - Steppe and Lakes of Northern Kazakhstan (Kazakhstan) 27COM D → I → I 自然景観、生物多様性 The Joggins Fossil Cliffs (Canada) I → I 地形・地質 Lagoons of New Caledonia: Reef Diversity and Associated Ecosystems (France) I → I 自然景観、生態系、生物多様性 Surtsey (Iceland) I → I 生態系 Bradyseism in Phlegraean Area (Italy) N → W “The Putorana Plateau” Nature Complex (Russian Federation) D → D Swiss Tectonic Arena Sardona(Switzerland) I → I 地形・地質 Quarry of the Fabrica Nacional de Cementos S.A. (FANCESA), Cal Orck’O, Sucre, Departamento Chuquisaca (Bolivia) N → W Monarch Butterfly Biosphere Reserve (Mexico) D → I 自然景観 <登録範囲の拡大関係 1件> an extension to the Pirin National Park (Bulgaria) W Cultural properties submitted for inscription to the World Heritage List: (34物件) <新登録関係 19物件> Le Morne Cultural Landscape (Mauritius) I → I 文化的景観 Sacred Mijikenda Kaya Forests (Kenya) 31COM D → R → I Al-Hijr Archaeological Site (Madain Salih) (Saudi Arabia) R → I 考古学遺産 Fujian Tulou (China) I → I 土地固有の建築物 Historic Monuments and Sites in Kaesong (Democratic People’s Republic of Korea) D → D Cultural Landscape of Bali Province (Indonesia) D → D 文化的景観 The Armenian Monastic Ensembles in Iranian Azarbayjan ((Islamic Republic of Iran) I → I 宗教物件 Hiraizumi - Cultural Landscape Associated with Pure Land Buddhist Cosmology (Japan) D → D 文化的景観 Historic Cities of the Straits of Malacca: Melaka and George Town (Malaysia) R → I 歴史的町並み、歴史的建造物群とアンサンブル The Kuk Early Agricultural Site (Papua New Guinea) I → I 文化的景観、産業遺産(農業遺産) Chief Roi Mata’s Domain (Vanuatu) D → I 文化的景観、象徴的物件とメモリアル The Sacred Site of the Temple of Preah Vihear (Cambodia) 31COM I → I 宗教物件 River Island of Majuli in midstream of Brahmaputra River in Assam (India) 31COM D → D Sulamain-Too Sacred Mountain (Kyrgyzstan) 31COM R → R → R 文化的景観 The Stari Grad Plain (Croatia) R → I 文化的景観、田舎の集落 Spa of Luha, ovice - area with a collection of historic spa buildings and spa-related facilities (Czech Republic) D → D The work of Vauban (France) I → I 軍事物件、象徴的物件とメモリアル Housing Estates in the Berlin Modern Style (Germany) I → I 20世紀の建築、近代遺産 System of Fortification at the Confluence of the Rivers Danube and Vah in Komarno - Komarom (Hungary / Slovakia) N → W The Triple-arch Gate at Dan (Israel) I → R Mantua and Sabbioneta (Italy) I → I 歴史的町並み San Marino Historic Centre and Mount Titano (San Marino) R → I 歴史的町並み Wooden Churches of the Slovak part of Carpathian Mountain Area (Slovakia) I → I 宗教物件 Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Cultural Landscape (Switzerland / Italy) I → I 産業遺産(土木遺産) Baha’i Holy Places in Haifa and Western Galilee (Israel) 31COM R → I 宗教物件 Cultural Landscape of Buenos Aires (Argentina) W Sao Francisco Square in the city of Sao Cristovao (Brazil) D → R Urban Historic Scenary Camaguey (Cuba) I → I 歴史的町並み Protective town of San Miguel and the Sanctuary of Jesus de Nazareno de Atotonilco (Mexico) I → I 田舎の集落、軍事物件、宗教物件 Leon Cathedral (Nicaragua) R → R <登録範囲の拡大関係 4物件> Mountain Railways of India (serial extension to include Kalka Shimla Railway (KSR)) (India), Historic Centres of Berat and Gjirokastra ? Towns of southern Albania, exceptional testimonies of well-preserved Ottoman settlements in the Balkan region, an extension (Albania), Palaeolithic Cave Art of Northern Spain (extension to Altamira Cave) (Spain), The Antonine Wall (extension to the Frontiers of the Roman Empire) (United Kingdom), ドイツの「ドレスデンのエルベ渓谷」については、4車線のフォレスト・キャッスル橋の建設によって、文化的景観の完全性が損なわれるとして、「世界遺産リスト」からの抹消も含めた審議を行いましたが、橋の建設中止など地元での対応などを当面は静観し、第32回世界遺産委員会では、世界遺産リストに留めることを決しました。代替案としての地下トンネルの建設などにより景観の保護が行われず、このまま橋の建設が継続され橋が完成した場合には、2009年の第33回世界遺産委員会セビリア会議での「世界遺産リスト」からの抹消が余儀なくされることになります。 今回の世界遺産委員会では、「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録されている30物件の変更は行われませんでした。しかし、新たに、「ボルドー、月の港」 (フランス 2007年 橋の架け替え)、「トンブクトゥー」(マリ 1988年 アハメド・ババ文化センター近くでの新建設)、「マチュ・ピチュの歴史保護区」(ペルー 1983年 森林伐採, 地滑りの危険, 無秩序な都市開発と聖域への不法侵入)、「サマルカンド − 文明の十字路」(ウズベキスタン 2001年 新道路や新ビル建設)の4物件について、監視強化メカニズム(reinforced monitoring mechanism)に基づく監視強化が要請されました。 監視強化メカニズムとは、2007年4月に開催されたユネスコの第176回理事会で採択された「世界遺産条約の枠組みの中で、世界遺産委員会の決議の適切な履行を確保する為のメカニズムを世界遺産委員会で提案すること」の事務局長への要請を受けて、2007年の第31回世界遺産委員会で採択された新しい監視強化メカニズムの下に、定期的なミッションが特別な緊張状態に置かれた世界遺産地に派遣されます。 監視強化メカニズムの目的は、通常、現場での開発を調べる専門家を派遣し、定期的に、現場の状況を世界遺産委員会に知らせることです。2007年の第31回世界遺産委員会クライストチャーチ会議では、既に「危機にさられている世界遺産リスト」に登録されている「ドレスデンのエルベ渓谷」 (ドイツ 2004年世界遺産登録)、「エルサレム旧市街と城壁」(1981年)、それに、コンゴ民主共和国の5つの世界遺産、「ヴィルンガ国立公園」 (1979年)、「カフジ・ビエガ国立公園」 (1980年)、「ガランバ国立公園」(1980年)、「サロンガ国立公園」(1984年)、「オカピ野生動物保護区」(1996年)の7物件が監視強化が要請されています。 オペレーショナル・ガイドラインズでの監視強化メカニズムを制度化するに先立ち、2009年の第33回世界遺産委員会で、ユネスコ世界遺産センターに、それまでの成果や教訓などの見解を纏めた報告書を提出することが要請されています。 新登録物件27物件(自然遺産8物件、文化遺産19物件)を含めた、最新のユネスコ世界遺産878物件(自然遺産174物件、文化遺産679物件、複合遺産25物件)の更新データは、2008年8月にシンクタンクせとうち総合研究機構が発刊する「世界遺産データ・ブック」、「世界遺産事典」、「世界遺産ガイド−世界遺産の基礎知識−改訂版」、「世界遺産キーワード事典−改訂版−」を、ご参照下さい。 今回の世界遺産委員会へのオブザーバーでの出席は、パリ、蘇州、ダーバン、ヴィリニュス、クライストチャーチに続いて、6回目になりますが、例年と異なる点は、日本から取材に来ていた全ての新聞社の記者から取材を受けたことです。時差、言語、昼夜を越えての国際的な世界遺産最前線での取材、ご苦労さまでした。精神的にも肉体的にもハードな仕事だと思いますが、学生に勧めたい職業の一つであることを再認識しました。 ●朝日新聞岩手版「平泉 世界遺産見送り 審議内容「再現」(2008年7月8日) ●読売新聞岩手版「世界遺産へ平泉再審査 戦略見直し必至」(2008年7月9日) ●岩手日報「大変だが希望ある」(2008年7月9日) ●毎日新聞「世界遺産狂想曲:平泉にみる課題/4 問われる条約の理念」(2008年7月11日) ●朝日新聞岩手版 構成資産めぐり難題(2008年7月10日) ●毎日新聞「世界遺産狂想曲:平泉にみる課題/番外編 推薦書の説得力不足」(2008年7月12日) ●日加タイムス(本社トロント 2008年8月1日) 尚、7月6日の午前中に行われた127物件の世界遺産の保護管理状況に関する報告の内、日本の「知床」については、結論的には、『ユネスコ世界遺産センターとIUCNのリアクティブ・モニタリング・ミッションによる勧告事項に留意し、特に強調したい次の9項目の履行を日本政府に要求するというものでした。 a)世界遺産の登録海域の保護強化に向けて国際海事機関(IMO)による「特別敏感地域」(PSSA)の指定の検討。 b)海域管理計画を全体管理計画に統合し、実施の為の予算やスケジュールをに示すこと。 c)全体管理計画の見直し、エコツーリズムなど適正利用を含めた形での完成。 d)海洋における持続可能な生産性を確保するため禁漁区を含めた保全の取り組みの検討。 e)スケトウダラの持続可能な漁獲に向け、ロシア連邦との協力の継続。 f)サケの自由な移動の推進。特に、ルシャ川の河川工作物の改良の優先。 g)シカの食圧が植生に影響を及ぼさない限界を見極めるための指標の作成。 h)エコツーリズム戦略の策定と観光・経済開発戦略との間の密接な連携確保。 i)気候変動の影響で知床の価値が下がらないよう「気候変動戦略」の開発。 (i)モニタリング・プログラム (ii)世界遺産への気候変動のインパクトを最小限にできる管理戦略 日本政府に、2008年のモニタリング・ミッションの勧告事項の履行状況をユネスコ世界遺産センターに定期的に通知すること、2012年の第36回世界遺産委員会で審議する為の上記の9項目に関する報告書を2012年2月1日までにユネスコ世界遺産センターに提出することを要求する。』というものでした。 また、「古都奈良の文化財」の世界遺産登録範囲へのインパクトが懸念される大和北道路(京奈和自動車道の一部)の建設について、世界遺産委員会は、大和北道路の建設は、世界遺産「古都奈良の文化財」の顕著な普遍的価値や完全性を損なわないことに留意し、締約国に対して、不測事態時の地下水位の変動防止の為の適切な地下水監視システムの確立やリスク軽減計画の策定を勧告し、わが国に対して、2009年の第33回世界遺産委員会での審議のために、2009年2月1日までに、これらの点を踏まえた報告書を世界遺産センターに提出することを要請しました。 今回の世界遺産委員会では、世界遺産の数の上限数に関する議論は、なされませんでした。個人的には、精々、1000物件程度かなと考えています。これから、毎年20〜30物件が世界遺産リストに登録されるとすると、1000物件に達するのは、5年後の2013年、第37回世界遺産委員会の頃になります。世界遺産の潮流としては、「選定よりも保存・継承」の流れが社会的に求められていると思います。 世界遺産条約の理念と目的は、「顕著な普遍的価値」(Outstanding Universal Value)を有する自然遺産および文化遺産を人類全体の為の世界遺産として、破壊、損傷等の脅威から保護・保存することが重要であるとの観点から、国際的な協力および援助の体制を確立することを目的にしています。 世界遺産は地球と人類の至宝という視点では、地球史、人類史の中で、顕著な普遍的重要性を有するものを選んでいくべきだと思いますし、国際機関のユネスコが実施している事業であることの意義を再確認する必要があると思います。人類全体が抱える地球環境問題への対応、当事国だけでは解決できない危機遺産の救済、国際的な監視体制の確立など、地球規模、全人類的な平和、安全・安心、幸福がかなえられる視座が必要だと思います。 今回、新たに世界遺産リストに登録された27物件にしても、果たして、人類共通の財産にふさわしいものばかりかというと疑問が残る物件も散見されます。また、既登録の878物件についても、統合・再編した方が良いものも数多くあります。また、1978年に初めて12物件が世界遺産リストに登録されて以来、30年が経過します。この間、登録基準の見直しなどオペレーショナル・ガイドラインズの改訂も行われました。なかには、現在のオペレーショナル・ガイドラインズを適用した場合、明らかに、登録要件を満たさない見受けられます。 無作為に、世界遺産の数を増やしていくのではなく、ある時点で、全体のレビューが必要だと思うのです。1500件とか2000件とかの数は考えられないのです。世界遺産リストの信頼性、世界遺産リストに反映されるべき各分野を代表する物件についても、世界的、また、歴史的な視点でのレビューが必要だと思います。 個人的な考えですが、世界遺産の数についても、面的な広がりを大切にし、例えば、世界地図の中での世界遺産保護地域(World Heritage Protected Area)の設定が必要だと考えています。世界遺産の数の多さを競うのではなく、国土面積に占める世界遺産保護地域の比率など新たな指標やベンチマークが必要だと思います。 例えば、わが国の代表的な城郭建築物の「姫路城」、「姫路城」を単体の世界遺産として守っていくことよりも、彦根城なども含めて、わが国独自の建築様式を誇る「日本の城郭群」をシリーズとして守っていくことの方が、世界遺産保護の考えの中では大切なのではないかと考えるに至っている今日この頃です。 第33回世界遺産委員会セビリア会議の議長は、マリア・サン・セグンド女史(Maria San Segundo スペインのユネスコ全権大使)、 ラポルチュールは、アントニオ・リカルテ氏(Mr. Antonio Ricarte ブラジルのユネスコ代表団カウンセラー)、副議長国は、アメリカ合衆国、チュニジア、バルバドス、ケニヤ、オーストラリアの5か国です。 |
帰国報告会・紀要・エッセイ・依頼事項等について |
第27回世界遺産委員会パリ会議、第28回世界遺産委員会蘇州会議、第29回世界遺産委員会ダーバン会議、第30回世界遺産委員会ヴィリニュス会議、第31回世界遺産委員会クライストチャーチ会議、に続いて、今回もオブザーバー・ステイタスで、参加致しました。帰国後の報告会、紀要、エッセイ等の執筆、依頼事項等がございましたら、ご連絡下さい。 |
他の類似物件との比較調査について |
世界遺産にふさわしい「顕著な普遍的価値」の証明にあたって、該当すると思われる登録基準とその根拠、真正性(真実性)、完全性の証明と共に求められるのが国内外の他の類似物件との比較分析です。長年、国内外の世界遺産研究に取り組んできた、私ども世界遺産総合研究所に「他の類似物件との比較調査」を、予算、納期などを明記の上、ご下命下さい。 |