「近江八幡の水郷」(滋賀県近江八幡市 人口約68,000人)が、わが国初の重要文化的景観に選ばれました。「近江八幡の水郷」は、近江八幡市の北東部に広がる西の湖やその周辺に展開するヨシ原などの自然環境が、西の湖の北岸に面する円山の集落の簾(すだれ)や葭簀(よしず)などのヨシ産業などの生業や内湖と共生する近江八幡の地域住民の生活と深く結びついて発展した風景である文化的景観です。
この地域は、古くから琵琶湖の東西交通を支えた拠点の一つとして栄え、近世には、豊臣秀次(1568〜1595年)が八幡山城の麓に城下町を開き、西の湖を経て琵琶湖につながる八幡堀を開削しました。ここでは、楽市楽座などの自由な商工業政策が行われ、八幡堀沿いの街は、八幡山城の廃城以降も在郷町(農村部に自然発生的に形成された都市)として発達しました。
八幡堀沿いの街は、舟運で結びついて旧城下町と一体的に展開し、現在の近江八幡市の市街地の骨格になりました。
近江八幡の商家町は、近江八幡市八幡伝統的建造物群保存地区として、国の重要伝統的建造物群保存地区(13.1ha)に1991年(平成3年)4月30日に指定されています。近江八幡は、京都から東口へ通じる東海道、中山道、北国街道が集まる湖東平野の中央に発達した町で、全国津々浦々に行商し、やがては豪商へと出世していった近江商人の根拠地として繁栄した時代の瀟洒な主屋や土蔵等が多数現存しています。特に、大型町家と前庭の見越しの松が連続して並ぶ景観は圧巻です。
文化的景観とは、棚田、里山など地域における人々の生活、または、生業及びその地域の風土により形成された景観地です。
文化的景観は、2005年4月1日に施行された文化財保護法の一部を改正する法律によって、新たに文化財の定義に位置づけられました。
文部科学大臣は、文化審議会に諮問し、文化的景観のうち特に重要なものを重要文化的景観として選定し、所要の保護措置を講じます。
文化的景観が新たに文化財として位置づけられた背景には、近年の土地開発や過疎化等により、その地域の歴史及び文化と密接に関わる固有の風土的特色を表す文化的景観が消滅していく脅威、危険、そして、危機から守ることにあります。
近江八幡を愛し、近江八幡のまちづくりに貢献した、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880〜1964年 近江八幡市の名誉市民第一号)も、きっと、大変喜んでいることと思います。
また、「近江八幡の水郷」は、わが国の有望な今後の世界遺産候補としても注目されるところです。また、既に暫定リストに登録されている「彦根城」(彦根市)との連関した湖国の「近江物語」を描き検討してみる価値もありそうです。
重要文化的景観の選定基準
1.地域における人々の生活、または、生業及び当該地域の風土により形成された次に掲げる景観地のうち、
わが国民の基盤的な生活、または、生業の特色を示すもので、典型的なもの、または、独特のもの (一)水田・畑地などの農耕に関する景観地 (二)茅野・牧野などの採草・放牧に関する景観地 (三)用材林・防災林などの森林の利用に関する景観地 (四)養殖いかだ・海苔ひびなどの漁ろうに関する景観地 (五)ため池・水路・港などの水の利用に関する景観地 (六)鉱山・採石場・工場群などの採掘・製造に関する景観地 (七)道・広場などの流通・往来に関する景観地 (八)垣根・屋敷林などの居住に関する景観地
2.1に掲げるものが複合した景観地のうちわが国民の基盤的な生活、または、生業の特色を示すもので、
典型的なもの、または、独特のもの。
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