第33回世界遺産委員会セビリア会議 「ドレスデンのエルベ渓谷」は、二例目となる「世界遺産リスト」からの抹消
「ル・コルビュジェの建築と都市計画」は、「情報照会」決議に前進 新登録物件13物件(自然遺産2物件、文化遺産11物件) 最新のユネスコ世界遺産890物件(自然遺産176物件、文化遺産689物件、複合遺産25物件) 初出国 ブルキナファソ、カーボヴェルデ、キルギス 危機遺産リストは、3増2減、31物件に 第34回世界遺産委員会は、ブラジルのブラジリア |
【セビリア発 世界遺産総合研究所 古田陽久】2009年6月22日から30日まで、スペインのセビリア市のセビリア会議・展示センター (FIBES)で、ユネスコの第33回世界遺産委員会が開催されました。セヴィリア市は、人口 約70万人、スペインで4番目の都市で、スペイン南部の都市、アンダルシア州の州都で、また、セビリア県の県都です。スペインを代表する観光都市の一つでもあり、闘牛やフラメンコの本場としても有名です。 セビリアでは、「セビリア大聖堂、アルカサル、インディアス古文書館」(Cathedral, Alcazar and Archivo de Indias in Seville) が、1987年に世界遺産リストに登録されています。 セビリア大聖堂は、15世紀に建てられた後期ゴシック様式の建築物です。ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂、ロンドンのセント・ポール大聖堂に次ぐ世界第三の規模を誇り、内部には、新大陸を発見したクリストファー・コロンブスの棺があります。718年から1492年まで行われた、イスラム勢力に征服されていたスペイン・イベリア半島をキリスト教国に取り戻す再征服活動のレコンキスタ以前は、巨大なモスクが立っていたといわれ、高さが約98mの鐘楼のヒラルダ(風見)の塔は、かつてはモスクのミナレット(尖塔)でした。 大聖堂の向かいに建っているアルカサル(城)は、13世紀のスペイン王室の宮殿で、その建築様式は、華麗なムデハル様式で、後の王による改修によって、ゴシック様式、ルネッサンス様式も混在しています。インディアス古文書館は、元は、商品取引所で、16世紀から200年間に亘るアメリカ大陸、それにフィリピンでの、スペイン帝国の歴史を物語る文書、地図、貿易関係の資料を保存している公文書館です。 世界遺産委員会は、186か国の世界遺産条約締約国から選任された21か国の締約国からなります。第33回世界遺産委員会の委員国は、オーストラリア、バーレン、バルバドス、ブラジル、カナダ、中国、キューバ、エジプト、イスラエル、ヨルダン、ケニア、韓国、マダガスカル、モーリシャス、モロッコ、ナイジェリア、ペルー、スペイン、 スウェーデン、チュニジア、アメリカ合衆国で、議長国は、スペイン、Mrs María Jesús San Segundoが議長、ラポルチュール(書記国)は、ブラジル、Mr Antonio Otavio Sá Ricarte が書記を務めました。ビューロー(幹事国)は、議長国のニュージーランド、副議長国のオーストラリア、バルバドス、ケニア、チュニジア、アメリカ合衆国、ラポルチュール(書記国)のブラジルの7か国から構成されました。 今年の第33回世界遺産委員会セビリア会議(6月22日~30日)での審議の結果は、次の通りです。世界遺産の数も、900に近くなっていますが、今回の世界遺産委員会の候補物件についてのIUCNやICOMOSの専門機関による事前の世界遺産委員会への勧告内容は、例年にない厳しい評価内容で、結果的に、900には、届きませんでした。 また、今回の世界遺産委員会では、これまで、危機遺産リストに登録されていた、ドイツの「ドレスデンのエルベ渓谷」の「世界遺産リスト」からの抹消の行方が注目されていましたが、残念なことに、二例目となってしまいました。 しかしながら、オマーンの「アラビアン・オリックス保護区」の抹消と異なる点は、世界遺産委員会は、"Every time we fail to preserve a site, we share the pain of the State Party,"という議長のコメントと共に、「ドレスデンのエルベ渓谷」には、「顕著な普遍的価値」を有する箇所もあるので、ドイツは、異なる登録基準と境界線のもとでの新登録の推薦書類を提出することは出来ると温情を示したことでした。 「ル・コルビュジェの建築と都市計画」については、意見がわれて、投票になりましたが、結果的に、ICOMOSの勧告の「登録延期」(Recommended for deferral)を覆し、「情報照会」(Referral of nominations))へと、一歩前進しました。「顕著な普遍的価値}(OUV)の証明にあたって、ル・コルビュジェなのか、或は、その建築作品の価値なのかの論点になりました。 「顕著な普遍的価値」の証明にあたっての十分条件である完全性を充足させる為、シリアル・ノミネーションとして多くの資産を構成する場合がありますが、構成資産それぞれが、単独でも、世界遺産にふさわしい「顕著な普遍的価値」を有するものであるべきという意見もあり、安易に構成資産を増やせば良いというものではないことを再認識しました。 危機遺産は、3増2減で、結果的に、31物件になりました。世界遺産を取り巻く脅威、危険、危機の因子も多様化しているのがわかります。 今年の世界遺産委員会での審議結果は、例年以上に、厳しい結果でした。ユネスコ世界遺産も、その信頼性や代表性を確保する為、これから、大きな転換期を迎えそうな予感が致します。フラメンコの"バイレ"と共に、大変暑い、セビリアの"夏"でした。 アンダルシア地方は、コルドバ、それに、グラナダを訪問して以来2度目でしたが、今回、以前から行ってみたかった自然遺産のスペイン最大の国立公園「ドニャーナ国立公園」(登録基準(vii)(ix)(x) 1994年に世界遺産登録)を訪問できたのも、大きな収穫でした。 自然遺産関係 2物件(その他に登録範囲の拡大 1) ●The Wadden Sea (Germany and the Netherlands); ●The Dolomites (Italy); ●Tubbataha Reefs Natural Park (extension to the Tubbataha Reef Marine Park, the Philippines); 文化遺産関係 11物件(その他に登録範囲の拡大 2) ●Stoclet House (Belgium); ●The Ruins of Loropéni (Burkina Faso); ●Cidade Velha, Historic Centre of Ribeira Grande (Cape Verde); ●Mount Wutai (China) ●From Great Saltworks of Salins-les-Bains to the Royal Saltworks of Arc-et-Senans, the production of open-pan salt (Extension to the Royal Saltworks of Arc-et-Senans, France); ●Shushtar Historical Hydraulic System (Iran); ●Sulamain-Too Sacred Mountain (Kyrgyzstan); ●Sacred City of Caral-Supe (Peru); ●Royal Tombs of the Joseon Dynasty (Republic of Korea); ●Levoca, Spišský Hrad and its Associated Cultural Monuments (Extension to Spišský Hrad and its Associated Cultural Monuments, Slovakia); ●Tower of Hercules (Spain); ●La Chaux-de-Fonds / Le Locle, Clock-making town planning (Switzerland); ●Pontcysyllte Aqueduct and Canal (United Kingdom). <備考> ○初出国 ブルキナファソ、カーボヴェルデ、キルギス <新登録関係> 自然遺産関係 2物件 文化遺産関係 11物件 合計 13物件 <登録範囲の拡大> 自然遺産関係 1物件 文化遺産関係 2物件 合計 3物件 尚、新登録物件の概要等については、シンクタンクせとうち総合研究機構発行の世界遺産シリーズ、「世界遺産ガイド」、「世界遺産データ・ブック」、「世界遺産事典」等の中で、逐次、ご紹介してまいります。 |