世界遺産学のすすめ |
世界遺産は時空を超えた地球と人類の至宝 ユネスコの「世界遺産リスト」には、毎年、各分野を代表する世界的に「顕著な普遍的価値」を有する多様な世界遺産が登録されています。自然景観、地形・地質、生態系、生物多様性、考古学遺跡、歴史都市、文化的景観、産業遺産、20世紀の建築など、時空を超えて、地球や生物の活動の営為、それに、人類である人間が創り出した財産、それが「世界遺産」といえます。 世界遺産学のすすめ 私たちが世界遺産のことを知ろうとする時、まずどんなことを学ぼうとするでしょうか。世界遺産のある国や物件の位置、自然環境や生態系、気候、風土、歴史的背景、人間と遺産との関わり、世界遺産を保護管理など、実に、多角的に多くのことを学ぶことができます。「世界遺産学」は、総合的、学際的、そして、国際的な学問です。 「世界遺産学」は、自然学、地理学、地形学、地質学、生物学、生態学、人類学、考古学、歴史学、民族学、民俗学、宗教学、倫理学、人間学、言語学、都市学、建築学、芸術学、文学、音楽、国際学、法律学、環境経済学、行政学、観光学など、地球と人類の進化の過程と未来を学ぶ総合学問であり、いわば、「世界遺産と総合学習の杜」であります。 世界遺産を有する世界の国と地域は、気候、地勢、言語、民族、宗教、歴史、風土などが異なり、また、素晴らしい芸術、音楽、文学、舞踊、美術など独自の伝統文化も根づいています。 世界遺産そのものの内容を学ぶ時、個々の物件の背景にある様々な分野の学問から得られる知識や情報を総合すれば、繋がりや類似性、或は、違いや独自性を発見したりすることが出来ます。世界観、国家観、民族観、宗教観、平和観も新たなパラダイムへの転換が必要で、その視座の一つが、地球市民としての「世界遺産学」なのです。 この様な視点で物事をとらえた場合、現代社会、そして、政治、経済、社会のシステムも時代の要請に適った変革が求められています。 教育分野についても、学校教育の教科、生涯学習や地域学習などの社会教育のテーマについても、「世界遺産学」や「世界遺産」が導入されつつあり、また、高度情報化の進展によって、就学スタイルも多様化しています。 「学ぶ」ということは、「理解」し「行動」することにつながります。世界遺産を通じて、様々な分野の学問にアプローチすることで、真の国際理解や、かけがえのない地球環境や平和の大切さの理解も深まり、国際交流の輪も広がります。 「世界遺産学」をおすすめしたいと思います。トンネルのような閉塞状況の中から、一筋の光明を見い出せるかも知れません。 世界遺産学と教育 世界遺産の多様性、多様な世界の国と地域の民族、歴史、地理、生活、産業を学び、それぞれの世界遺産地が抱えている問題点や課題を認識し、その解決策を世界遺産地の人々と共に考えていく事も大切で、この様な努力があってこそ、世界遺産の保護や保存を通じての真の国際協力が達成されるのだと思います。 世界の平和を保っていくためには、自然や文化の多様性を認識し、異文化を理解し、国際協力に努めていく必要があります。 世界遺産は、世界遺産登録をゴールとするのではなく、関係行政機関や地元住民などが一体となって、世界遺産登録後も、中長期的な保存管理や監視活動に尽力していくことがきわめて重要です。 世界遺産を取巻く環境が、脅威、危険にさらされ深刻化すると、大変不名誉なことですが、エクアドルの「ガラパゴス諸島」の様に「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録されたり、終末的には、オマーンの「アラビアン・オリックス保護区」、ドイツの「ドレスデンのエルベ渓谷」の様に「世界遺産リスト」から抹消されることにもなるのです。 世界遺産は、保存が基本ですが、教育、観光、地域づくりやまちづくりなどに利活用していくことも大切です。 しばしば、本末転倒になって、貴重な自然遺産や文化遺産が損なわれる場合がありますが、そうならない様に危機管理も重要です。 私は、大学等で、「世界遺産概論」、「日本の世界遺産」、「世界遺産学」などの科目を担当してきました。 「世界遺産学」とは、学問的には、自然科学、人文科学などの知識をベースとして、理工科学などの技術やスキルを駆使して、社会科学の発想と知恵で、問題解決を計っていく総合科学、或は、複合科学の分野だと考えています。 これらの学習を通じて、世界遺産を取り巻く環境、そして、脅威、危険、危機などの状況を知り、私たち人類は、地球上のかけがえのない世界遺産をいかに守っていくべきなのか、これらの問題解決に貢献できる人材が育って欲しいと願っています。 世界遺産学を通じて、世界遺産に関わるプロフェッショナルになる為の基礎学習、或は、セカンドライフでの数ある学習テーマの一つになれば、この上ないと考えています。 古田 陽久 |