阿里山森林鉄道










2014年9月30日(火)から10月4日(土)までの5日間、台湾の世界遺産候補地である「阿里山森林鉄道」を訪れる機会を得た。


阿里山は、台湾の嘉義県にある最高峰の大塔山(標高2663m)をはじめ、尖崙山、祝山、対高岳山、塔山など18の高山から構成されたエリアのことで、鉄道、森林、雲海、日の出、夕霞の五大奇観で知られている。 

「阿里山森林鉄道」(阿里山森林鉄路)は、全長約 71.4kmで、海拔30mの嘉義北門駅から 海抜2216mの阿里山駅まで、合計17個の駅に停車、乗車時間は約3時間20分。鉄道が通過する地形は大まかに平地と山地に分けられ、気候や植生なども大きく変化する。

平地は、嘉義北門駅から竹崎駅までで、約 14.2km。竹崎駅から斜面を登りはじめ、ゆっくりと重なる嶺の間を登って行く。ここからは傾斜度が大きく、回転半径は小さくなり、通過する橋梁やトンネルは非常に多くなる。

獨立山のスイッチバック方式の鉄道風景はとても珍しい。これに、阿里山名物の高山茶の茶畑の文化的景観など高山の景観が加わる。また、標高1800m以上になると、樹齢1000年を超えるタイワンヒノキ(紅檜)が多く自生しており、

かつては、明治神宮の大鳥居、靖国神社の神門、橿原神宮の神門と外拝殿、東大寺大仏殿の垂木など、日本の多くの神社仏閣に阿里山のタイワンヒノキが使われた。

阿里山森林鉄道の一帯は、国家的には、阿里山国家風景区、阿里山国家森林遊楽区に指定されており、国際的には、観光旅行スポットとして人気を博している。

 また、阿里山森林鉄道は、1986年に、日本の「大井川鉄道」(静岡県島田市)と2013年4月に、「黒部峡谷鉄道」(富山県黒部市)と姉妹鉄道提携している。

 


「阿里山森林鉄道」がユネスコの世界遺産級にふさわしいかどうかは、その世界的な「顕著な普遍的価値」を証明しなければならない。

 必要条件として、世界遺産の登録基準を一つ以上を満たすこととその根拠の説明、十分条件として、真正性、完全性の証明、他の類似物件との比較分析などが求められなど必要十分条件を満たす必要がある。


さて、ユネスコの「世界遺産リスト」には、多様なものが登録されているが、鉄道遺産については、次の3件が登録されている。


○センメリング鉄道 (Semmering Railway)  

登録面積 156ha  バッファーゾーン 8,581ha
  文化遺産(登録基準(ii)(iv)) 1998年 オーストリア


○インドの山岳鉄道群(Mountain Railways of India)   

登録面積 89ha  バッファーゾーン 645ha
  文化遺産(登録基準(ii)(iv)) 1999年/2005年/2008年 インド

○レーティッシュ鉄道アルブラ線とベルニナ線

Rhaetian Railway in the AlbulaBernina Landscapes) 

登録面積 152ha  バッファーゾーン 109,386ha
 文化遺産(登録基準(ii)(iv)) 2008年 イタリア/スイス


 「センメリング鉄道」(Semmering Railway)は、ウィーンの森の南方のニーダエステライヒ州にある山岳鉄道で、18481854年にかけて、エンジニアのカール・リッター・フォン・ゲーガ(18021860年)の指揮のもとに建設された。

センメリング鉄道は、ミュルツツシュラーク(グラーツ方面)とグロックニッツ(ウィーン方面)の間の41kmを切り立った岩壁と深い森や谷を縫って走る。ヨーロッパの鉄道建設史の中でも画期的な存在で、土木技術の偉業の一つと言える産業遺産。

当時は、標高995mのセンメリング峠を超えるのは、物理的にも困難だったが、勾配がきつい山腹をS字線やオメガ線のカーブで辿ることにより、また、センメリング・トンネル(延長1.5km、標高898m)を通したり、クラウゼルクラウゼ橋やカルテリンネ橋など二段構えの高架の石造橋を架けることによって、それを解決した。

この鉄道の開通によって、人々は、シュネーベルク(2076m)やホーエ・ヴァント(1132m)などダイナミックな山岳のパノラマ景観や自然の美しさを車窓から眺めることが出来る様になった。また、かつては、貴族や上流階級のサロンであったジュードバーン、パンハンス、エルツヘルツォーグヨハンなど由緒あるホテルの遠景も、新しい形態の文化的景観を創出している。

「インドの山岳鉄道群」(Mountain Railways of India)は、ダージリン・ヒマラヤ鉄道 (DHR)とニルギリ山岳鉄道(NMR)、カルカ・シムラー鉄道(KSR)からなる。ダージリン・ヒマラヤ鉄道は、インド北西部シッキム州のネパール国境とブータンの近くを走る1881年に開通した世界最古の山岳鉄道で、ダージリンとニュー・ジャルパイグリ駅の83kmを結ぶ。

急勾配や急カーブなどにも小回りが利くように線路の幅が2フィート(61cm)と狭いのが特徴。美しいダージリン丘陵とヒマラヤ山脈の山間部を走るトイ・トレイン(おもちゃの列車)は、技術的にも優れた世界的な名声を博する産業遺産で、カンチェンジュンガ(8586m)の山々などヒマラヤ山脈のすばらしい自然景観と共に旅行者の目を楽しませている。ダージリンは、標高2134mの高原リゾート地で、ダージリン茶の産地としても知られている。

ニルギリ山岳鉄道は、インド南部タミール・ナドゥ州のメットゥパーヤラムとウダガマンダラム(旧ウーティ)を結ぶ。約17年間の工期をかけて1908年に完成した全線46km、標高326mから2203mへと走る単線の山岳鉄道で、英国植民地時代から人の移動や地域開発に重要な役割を果たしてきた。

また、カルカ・シムラー鉄道は、デリーの北部約200kmのヒマーチャル・ブラデーシュ州の州都シムラーとハリヤーナ州のカルカを結ぶ96kmの単線で、1903年に供用が開始された。

インドの山岳鉄道群は、1999年に「ダージリン・ヒマラヤ鉄道」として登録されたが、20057月の第29回世界遺産委員会ダーバン会議で、ニルギリ山岳鉄道も含めたことにより、登録遺産名も変更され、さらに、2008年の第32回世界遺産委員会ケベック・シティ会議で、カルカ・シムラー鉄道が追加登録された。

「レーティッシュ鉄道アルブラ線とベルニナ線の景観群」(Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Landscapes)は、スイスとイタリアにまたがるスイス・アルプスを走る2つの歴史的な鉄道遺産である。レーティッシュ鉄道の北西部、ライン川とドナウ川の分水嶺でもあるアルブラ峠を走るアルブラ線は、1898年に着工し、1904年に開通した。ヒンターライン地方のトゥージスとエンガディン地方のサン・モリッツの67kmを結び、ループ・トンネルなど42のトンネル、高さ65mの印象的なランドヴァッサー橋などの144の石の高架橋が印象的である。

 一方、ベルニナ峠を走るベルニナ線は、サン・モリッツからイタリアのティラーノまでの61kmを結び、13のトンネルと52の高架橋が特徴である。ベルニナ鉄道(現在のレーティッシュ鉄道ベルニナ線)は、歯車を使ったラック式鉄道ではなく、一般的なレールを使った鉄道で、アルプス最高地点を走る鉄道として、すぐにその技術が大きな話題となり、後につくられるさまざまな鉄道計画のモデルになったといわれている。

万年雪を冠った標高4000m級のベルニナ山脈の名峰や氷河が輝くスイス・アルプスの世界から、葡萄畑や栗林に囲まれた素朴な渓谷を越えるイタリアまでの縦断ルートである。標高2253mから429mまで、1824mの高低差を克服、驚くべき絶景が連続的に展開する。

 レーティッシュ鉄道は、20世紀初期から約100年の歴史と伝統を誇るグラウビュンデン州を走るスイス最大の私鉄会社で、アルプスの雄大な大自然を破壊することなく切り開き、山岳部の隔絶された集落を繋ぎ生活改善を実現した鉄道利用の典型である。レーティッシュ鉄道は、驚異的な鉄道技術、建築、環境が一体的であり、その鉄道と見事に共存しつつ現代に残された美しい景観は周辺環境と調和すると共に建築と土木の粋を具現化したものである。

レーティッシュ鉄道は、最も感動的な鉄道区間として、今も昔も世界各地からの多くの観光客に親しまれており、最新のパノラマ車両も走る人気の絶景ルートであるベルニナ・エクスプレス(ベルニナ急行)の路線で、グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)の一部区間でもある。レーティッシュ鉄道ベルニナ線は、日本の「箱根登山鉄道」と姉妹鉄道提携をしている。

これら3件の世界遺産に共通するのは、登録基準の(ii)(iv)が適用されている。

登録基準の(ii)は、ある期間を通じて、または、ある文化圏において、建築・技術、記念碑的芸術、町並み計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。

登録基準の(iv)は、人類の歴史上、重要な時代を例証する、ある形式の建造物、建築物群、技術の集積、または、景観の顕著な例。

「阿里山森林鉄道」の場合はどうか、自然遺産関係の登録基準(vii)~(x)も含め、該当する登録基準とその根拠を説明しなければならない。そして、十分条件として、真正性、完全性の証明、これら3つの類似物件との比較分析など必要十分条件を満たす必要がある。

また、担保条件として、長期的な保全管理計画の策定が必要である。台湾の遺産を世界の遺産に、台湾からの世界遺産は、台湾の人々にとっては悲願であろう。

 また、台湾遺産の代表格である「阿里山森林鉄道」が世界遺産にふさわしいかどうか、その世界的な「顕著な普遍的価値」の検証を行うと共に長期的な保全管理体制の確立と保全管理計画の策定と実施、それに、国際的な協力及び援助の体制を構築していくことが重要である。




 
















参考文献
世界遺産ガイド-ユネスコ遺産の基礎知識
世界遺産データブック  2015年版
世界遺産事典 -1007全物件プロフィール-2015改訂版
世界遺産ガイド-世界遺産条約編とオペレーショナルガイドラインズ編
世界遺産ガイド -世界遺産の基礎知識-2009改訂版
世界遺産ガイド -文化遺産編-2013改訂版
世界遺産ガイド -文化的景観編-
世界遺産ガイド -北東アジア編 -
世界遺産入門 -ユネスコから世界を学ぶ-









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