知床・世界遺産登録実現に向けてのエール










 

 個人的には、日本では、13件目の世界遺産(自然遺産では3件目)それに、北海道初の世界遺産が誕生することを期待しています。持続的な漁業が可能な「海洋保護区」の設定とサケやマスの遡上や生態系を守る「ダム」の撤去の2つの課題がありますが、たとえ、将来的な課題として条件が付けられるにせよ、完全性が担保されていないことを理由に登録が見送りにならないことを願うばかりです。

 2004年12月中旬にIUCN本部で開催されたIUCN世界遺産パネルでは、IUCNがユネスコから専門的評価を依頼された各物件について、各国から提出された登録推薦書類の技術的なレビュー、IUCNから候補地に派遣された専門家ミッションによる現地調査報告書、外部専門家のコメントを基に議論がなされました。

 IUCNは、今回の世界遺産パネルで審議の対象になった下記の20物件の物件名を、先日、インターネットのホームページで公表しました。自然遺産関係の10物件(既登録物件で登録範囲の拡大する1物件を含む)、自然遺産と文化遺産の両方の登録基準に適合する複合遺産関係の3物件、自然環境と人間活動との共同作品である文化的景観(注)関係の7物件の3分野に分けて載せていますが、その中で、自然遺産関係の日本の「知床」(デイビッド・シェパード氏撮影)とインドの「フラワーズ渓谷」の写真だけがクローズ・アップされて掲載されていたのが印象的でした。
(注)文化的景観は、文化遺産のカテゴリーで、ICOMOS(国際記念物遺跡会議)が主担当ですが、自然環境についてIUCNの評価を求めているものです。

 日本の「知床」については、今回名前があがっている自然遺産関係の候補物件との相対評価ではなく、あくまでも、「知床」が世界自然遺産にふさわしい物件かどうかの絶対評価がIUCN世界遺産パネルでは行われ、IUCNとしての世界遺産委員会への勧告の方針が決められました。

 他の物件についても、知名度が高いかどうかは別として、顕著な普遍的価値を有する世界的な地形・地質、生態系、自然景観、生物多様性を誇る自然科学の各分野を代表するものばかりです。

 なかでも、インドネシアの西カリマンタン州とマレーシアのサラワク州にまたがり、ボルネオ・オランウータンなどの絶滅危惧種が生息する貴重な生物多様性が不法な木材の伐採などで危機にさらされている「ボルネオの越境の熱帯雨林遺産」、ノルウェーの世界屈指のフィヨルド(峡湾)地形と自然景観を誇る「西ノルウェー・フィヨルド−ガイランゲル・フィヨルドとナールオイ・フィヨルド」、メキシコの海洋生態系と生物多様性が無秩序な資源開発などで危機にさられている「カリフォルニア湾の諸島と保護地域」、南アフリカの世界最大で最古と言われる隕石のドームである「フレデフォート・ドーム」、スイスの地質学的にも大変貴重な「グラルス衝上断層」などのスケールは、圧巻です。

 今後、5月までに、各物件についての技術評価報告書(推薦物件の顕著な普遍的価値、世界遺産リストや暫定リストに記載されている類似物件との比較、管理に関する審査、完全性の重要事項、登録基準の適用の評価、世界遺産委員会への勧告)がまとめられユネスコ世界遺産センターに報告されます。

 最終的には、2005年7月上旬に南アフリカのダーバン市の国際コンベンション・センターで開催される第29回世界遺産委員会ダーバン会議で、IUCNの勧告と技術評価報告書を基に、「知床」をユネスコの「世界遺産リスト」に登録するかどうかの可否が決まります。(古田陽久)



自然遺産関係 10物件
○ エジプトの「ワディ・アル・ヒタン(ホウェール渓谷)」
○ インドの「フラワーズ渓谷国立公園」<1988年に既に世界遺産リストに登録されている「ナンダ・デヴィ国立公園」の登録範囲の拡大>
○ インドネシア/マレーシアの「ボルネオの越境の熱帯雨林遺産」
○ 日本の「知床」
○ メキシコの「カリフォルニア湾の諸島と保護地域」
○ ノルウェーの「西ノルウェー・フィヨルド−ガイランゲル・フィヨルドとナールオイ・フィヨルド」
○ パラグアイの「バラカユ森林自然保護区」
○ 南アフリカの「フレデフォート・ドーム」
○ スイスの「グラルス衝上断層」、
○ タイの「ドン・ファヤエン− カオヤイ森林保護区」

複合遺産関係 3物件
○コロンビアの「チリビケテ山地自然国立公園」
○ ガボンの「ロペ・オカンダの生態系と文化的景観」
○ ガボンの「ミンケベ森林の生態系と文化的景観」

文化的景観関係 7物件
○ アルメニアの「グニシカゾル地域の文化的景観」
○ オーストリアの「アンブラス城とノルトケッテ・カーヴェンデル・アルプス公園があるインスブルックの歴史地区」
○ キルギスタンの「イシク・クル」
○ リトアニアの「トラカイ歴史国立公園」
○ モーリタニアの「アズギ−オアシスとアルモラヴィドの首都」
○ ナイジェリアの「オシュン・オショグボの聖なる森」
○ スロヴァキアの「スロヴァキアの牧草地景観」

(出所)世界遺産総合研究所の仮訳による



















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