文化庁 将来の世界遺産候補を全国自治体から募集






 9月15日の毎日新聞によると、文化庁は、世界遺産への登録を目指す全国の自治体に積極的に名乗りを上げてもらうことを決めた模様だ。10月から11月末にかけて全国から世界遺産登録推薦候補を募集し、2007年1月に、文化審議会の特別委員会で、暫定リスト記載物件を選定。さらに数年間にわたり毎年暫定リスト記載物件を追加することにしている。

 世界遺産に登録されるためには各国が将来の世界遺産登録推薦候補を記した暫定リストを提出し、このリストからユネスコ(国連教育科学文化機関)に推薦し、世界遺産リストへの登録の可否が決まる。

 30〜40件の候補を抱える国もあるが、国内の世界遺産暫定リスト記載物件数は現在4件。既にユネスコへ推薦済みの「石見銀山遺跡」(島根県)と、2006年9月14日に登録推薦が正式決定した「平泉の文化遺産」(岩手県)を除くと、1992年に候補になった「鎌倉の寺社」(神奈川県)と「彦根城」(滋賀県)の2件だけ。「このままでは『日本には候補もあまりないのか』ということになりかねない」(文化庁記念物課)という。


(参考) 世界遺産の数と暫定リスト記載物件数
@イタリア      41 59
Aスペイン     39 30
B中国 33 60
Cドイツ 32 15
Dフランス 30 39
Eイギリス 27 17
Fインド 26 14
Fメキシコ 26 21
Hロシア 23 18
Iアメリカ合衆国 20 72
Jブラジル 17 18
Kギリシャ 16
Kオーストラリア 16
Mスウェーデン 14
Nカナダ 13
Nポルトガル 13
N日本 13
Qポーランド 13
Rチェコ 12 11
Sペルー 10
(出所)シンクタンクせとうち総合研究機構発行「世界遺産ガイド−図表で見るユネスコの世界遺産−」




世界遺産条約に基づく世界遺産の登録に係る国内手続等に関するQ&A

 

 現在、全国各地に所在する文化遺産について、地方自治体やNPO等を主体として、ユネスコによる世界遺産の登録を目指す運動が活発化している。

しかし、国内における世界遺産登録に向けた手続は不透明な部分が多く、なかでも、政府がユネスコ世界遺産委員会への推薦に先立って、5〜10年以内の世界遺産登録を目指す物件の目録として提出する世界遺産暫定リストは、その作成過程及び物件の掲載基準が明確にされていないため、手続の透明化が強く望まれている。

 世界遺産へ登録するにふさわしい文化遺産が、万全の保護措置を受け、世界遺産暫定リストへ円滑に掲載されるためには、手続の透明性を高めることが不可欠である。手続の透明化によって、文化遺産に関係する地方自治体や関係者が無用な不安を抱いたり混乱を招いたりすることなく、世界遺産登録に向けた適切な活動を行うことが可能になると同時に、国民全体の世界遺産への関心・理解を高めるための一助となることが期待されている。

 

Q1政府が、世界遺産暫定リストを作成する際の具体的な手続等について、法令上の根拠を示すとともに、その内容を具体的かつ網羅的に明らかにしてもらいたい。

 

A1世界遺産暫定リスト(以下「暫定リスト」という。)については、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(1992年条約第7号)第11条1において、締約国は、文化遺産又は自然遺産の一部を構成する物件(以下「資産」という。)で、自国の領域内に存在し、世界遺産リストに記載されることが適当であるものの目録を国際連合教育科学文化機関の顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産の保護のための政府間委員会(以下「世界遺産委員会」という。)に提出することとされている。

具体的には、世界遺産委員会が作成した「世界遺産条約履行のための作業指針」において、締約国は、資産の名称、地理的な位置、資産の簡単な説明及び顕著な普遍的価値の根拠を記載した暫定リストを作成し、世界遺産委員会の事務局に提出することとされている。

 

Q2政府は、2000年に文化財保護審議会世界遺産条約特別委員会において世界遺産暫定リストの見直しを行ったが、その際の世界遺産暫定リストへ掲載する文化遺産の基準を明らかにして欲しい。併せて、その基準が現在においても有効であるか否かを明らかにして欲しい。

A22000年に暫定リストへの資産の追加の検討を行った際は、

 @文化的景観や産業遺産などを選考対象とすること、

A(1)世界文化の見地から高い価値を有している国宝建造物、特別史跡、特別名勝を中心とする一群の文化財であること、及び(2)特に世界的意義が認められるもの、日本の遺産を代表するもの又は同種の資産の国内外における比較において代表的なものであることを考慮して選定する資産を厳選すること、並びに

B保護の体制が整備され、環境保全が十分図られていることを選定の基準とした。今後、暫定リストへの資産の追加を行う際は、どのような選定の基準が適当か、改めて検討する必要があると考えている。

 

Q3世界遺産暫定リストへの物件の掲載あるいは掲載済物件の削除の考え方として、以下の事項について考慮しているのか否かを明らかにして欲しい。

1文化財保護法に基づく文化財の指定、特に国宝又は特別史跡名勝天然記念物の指定の有無

2世界遺産リスト及び暫定リスト掲載物件のカテゴリー(歴史的建造物、産業遺産、文化的景観等)間のバランスあるいは地域間バランスの不均衡の是正

3同種の物件が国内外において世界遺産に登録されていないこと

4世界遺産登録に関する周辺地域住民等の署名、関係機関等による意見書等の提出あるいは陳情、保存に対する地域の取組状況及び今後の見込みなど、各地域における活動の状況

 

A3これまでの暫定リストへの資産の追加に際しては、前記1、2のうちの「カテゴリー間のバランス」、3及び4のうちの「保存に対する地域の取組状況」について考慮している。

 

Q42004年12月4日付朝日新聞記事「知名度アップ、世界遺産に立候補続々(beReport」によると、世界遺産暫定リストへの物件掲載について、文化庁記念物課のコメントとして、「確実に世界遺産になれるものでないと載せられない」との記述がある。政府は、「確実に世界遺産になれる」ことを世界遺産暫定リストへの掲載の要件と考えているのか、認識を示して欲しい。併せて、「確実に世界遺産になれる」ことの判断基準を明らかにして欲しい。

A4暫定リストは、締約国が、自国の領域内に存在する資産で、世界遺産リストに記載されることが適当であると考えるものの目録であり、政府としては、「確実に世界遺産になれる」ことを要件と考えているものではない。

 

Q5政府は、2000年以降、文化遺産については、世界遺産暫定リストの見直しを行っていないが、その理由を明らかにして欲しい。併せて、政府において、2000年以降、世界遺産暫定リストの掲載候補地の選定の準備作業を行っていたか否か、行っていたならばその実施状況及び結果について明らかにして欲しい。

 

A5暫定リストに記載した資産については、確実な保護措置をとるなど条件の整ったものから世界遺産委員会に順次推薦しており、現時点で推薦作業が終わっていない資産もあることから、現在、暫定リストへの資産の追加について、委員会又は調査研究協力者会議等(以下「委員会等」という。)を開催しての検討は行っていない。

 

Q6政府は、2000年の世界遺産条約特別委員会の開催以降、現在に至るまで、文化遺産について、世界遺産暫定リストの見直しを行うための委員会又は調査研究協力者会議等(以下、「委員会等」という。)を設置していないが、その理由を明らかにして欲しい。併せて、政府が委員会等を設置する際の要件及び具体的な手続(委員会等の設置・開催の発議及び構成員の選任を誰が行うのか)を明らかにして欲しい。

 

A6 Q5についてで述べた理由から、2000年に暫定リストへの資産の追加の検討を行った後、委員会等を開催しての検討は行っていない。委員会等を開催する際の要件及び具体的な手続については、文化審議会文化財分科会の議論を踏まえつつ、検討したい。

 

Q7政府は、Q6の委員会等を今後設置することを検討しているのか明らかにして欲しい。併せて、設置の予定があるならば、設置時期の目途及び暫定リストへの掲載候補として考えている物件を明らかにして欲しい。

 

A7委員会等の開催及び開催時期等については、文化審議会文化財分科会の議論を踏まえつつ、検討したい。

 

Q8わが国の世界遺産暫定リストの文化遺産の掲載物件は、過去数年間にわたり5件前後で推移している。欧米を始めとする諸外国は、より多くの物件を暫定リストに掲載し、世界遺産リストにも多くの文化遺産が掲載されている。政府は、わが国において、今後世界遺産へ登録するにふさわしい文化遺産はどの程度存在すると考えているのか明らかにして欲しい。

A8現在暫定リストに記載している資産のほか、わが国において世界遺産リストに記載されることが適当であると考える資産がどの程度あるかについては、暫定リストへの資産の追加について委員会等を開催しての検討を行っておらず、現時点でその数を答えることは困難である。

 

Q9世界遺産暫定リストの見直しに当たっては、応募要件・公募期間等の応募要領を十分に周知した上で、世界遺産への登録を目指す地方自治体等から広く立候補を募る公募制を導入するとともに、委員会等におけるオープンな議論を経て、暫定リストへの掲載候補を選定し、応募物件に対する委員会等の講評を明らかにするといった、公正性、透明性の高い委員会等の運営の在り方を望むが、政府の認識を示して欲しい。

 

A9今後、暫定リストへの資産の追加について委員会等を開催しての検討を行うに際しては、文化審議会文化財分科会の議論を踏まえつつ、公正性及び透明性の確保に努めたい。

 

Q10世界遺産暫定リストの作成手続において、透明性を確保するため、Q9に示した公募制の導入のほか、リストに掲載する文化遺産に関する適切な基準の設定や、積極的な情報開示等が不可欠と考えるが、以下の各項目について、政府の今後の対応方針を明らかにして欲しい。

 

1委員会等の常設化
2委員会等の構成員の選任理由の公表
3委員会等の開催日時の公表
4委員会等の議事の公開
5世界遺産暫定リストへの掲載基準の公開
6委員会等の配付資料、会議録等の情報についてホームページ等における公開
7世界遺産暫定リストへの掲載を望む地方自治体や関係者等の委員会等への関与の在り方8世界遺産暫定リストの見直しに関するパブリックコメントの実施
9世界遺産暫定リストの見直し及び世界遺産推薦の決定に関する国会の同意

 

A10

Q10の1について

 暫定リストへの資産の追加について委員会等を開催しての検討は必要であると考えているが、委員会等を常設化する必要はないと考えている。

 

Q10の2から6まで及び8について

 公正性及び透明性の確保の観点から、適切に対応したい。

 

Q10の7について

 文化審議会文化財分科会の議論を踏まえつつ、検討したい。

 

Q10の9について

 暫定リストへの資産の追加及び世界遺産リストへの記載の推薦の決定については、文化審議会等や世界遺産条約関係省庁連絡会議を開催しているところであり、国会の同意が必要であるとは考えていない。

 

Q11政府は、世界遺産への登録を目指す地方自治体や関係者等の相談等を積極的に受け付け、世界遺産にふさわしい万全の保護措置が適切にとられるよう、指導や助言等の措置を講ずるべきと考えるが、政府の認識を示して欲しい。また、このような相談を受け付ける窓口を設置する考えがあるか。もし既に設置しているならば、具体的状況を明らかにして欲しい。

A11世界遺産への登録を目指して、地方公共団体において文化財保護のための取組が一層推進されることは意義のあることと考えており、これまでも文化庁文化財部記念物課を窓口として、地方公共団体等への指導及び助言等を行っているところであり、今後ともその充実に努めたい。


(出所)富岡由紀夫参議院議員(群馬県選挙区)提出の「世界遺産条約に基づく世界遺産の登録に係る国内手続等に関する質問主意書」(2006年6月1日)に対する、政府答弁書(2006年6月9日)を基に作成。





















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