東日本大震災の復興に向けて







 
先日、「復興の記憶 広島 戦後の商業史」という写真展を見に行った。昭和2086日に広島に原爆が投下され、一面、焼け野が原になった光景は、東日本大震災による大津波の被害状況と重なって見えた。

 この写真展では、被爆前、被爆時、そして、復興・再生へと向う都市と企業の写真が生々しく紹介されていた。そのパンフレットの中に「生きるために哀しんでいる余裕は無かった。その日その日を精一杯生きた。それでも笑顔を忘れなかった。」という一節を見つけ、感動した。

復興していく街の様子、逞しく生きた住民、無邪気な子供達の笑顔、そこには、明るく生き抜いた人々の暮らしが写し出されている。

 東日本大震災から1年を迎え、連日、テレビや新聞でも被災時の状況と復旧・復興に向けての様子が報じられている。なかでも、これからの復興の歴史は、丹念に記録に残しておくべきだ。我々が忘れてはならない記憶を、後世に伝ええる責務もあるはずである。

 私は、長年にわたり、ユネスコの世界遺産の研究をしている。昨年は、岩手県の「平泉」が世界遺産に登録され、東北復興への希望の光となったことは記憶に新しいところである。

同じく、ユネスコの事業で、「世界の記憶」というプログラムがある。ドイツの「ベートーベンの第九の楽譜」、フランスの「人権宣言」、オランダの「アンネフランクの日記」など、いずれも歴史的な文書、絵画、写真など人類が忘れてはならない世界的な記録遺産が登録されている。

 わが国では、昨年、日本社会の近代化の特徴をよくとらえた炭鉱記録画の代表作として、「山本作兵衛コレクション」が日本初の世界記憶遺産となり、一躍注目を浴びた。また、仙台市博物館が所蔵している支倉常長が持ち帰った「慶長遣欧使節関係資料」もスペインと共同で2013年の登録をめざしている。

これらの「世界記憶遺産」とは何なのか、そのプログラムの全体像を明らかにすべく「世界記憶遺産データ・ブック」という本を、昨年末に出版した。現在は245件が「世界記憶遺産リスト」に登録されている。

 この世界記憶遺産の中に、ポーランドの「ワルシャワ再建局の記録文書(19451953)」がある。ワルシャワは、第二次世界大戦で、ナチス・ドイツによって壊滅的な被害を受け焦土と化した。戦後、ワルシャワ再建局により都市は再建され復興したが、その間の記録文書が2011年に登録されたのである。

 なかでも、かつては中世ヨーロッパの美しい街並みを誇っていた旧市街は、戦後40年間、戦前に記録された詳細な建築図面や写真を手掛かりに、市民のたゆまぬ努力によって、300400年前の中世の町並みに復元され、「ワルシャワの歴史地区」として1980年に世界遺産に登録された。

 この様に、都市の復興、再生の記録は大変貴重である。わが国では、被爆地から蘇生した広島や長崎、関東大震災や東京大空襲の被害から見事に立ち直り世界的な大都市となった首都東京、阪神・淡路大震災から復興した神戸などの先進事例がある。自然災害と人為災害との違いはあるものの、関係者が生きることへの希望を失わなかったことは共通点である。

 東日本大震災の場合には、大津波、そして、原発事故と、人類が未だ経験したことのない未曾有の複合災害である。それ故に、事態は深刻ではあるが、世界が注目し応援している。

 関係者にとっては、辛い日々だと思うが、冒頭で述べた様に笑顔は忘れないで欲しい。人間の絆、たゆまぬ努力で、ワルシャワ等の事例を励みに明るさを忘れず都市の再建、企業の再生に取組んでもらいたい。

                            (古田 陽久


















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