国連教育科学文化機関・ユネスコの事業に「世界の記憶」というプログラムがある。世界の128か国など世界的に重要な記録物494件が選定されている。有名なものでは、フランスの「人間と市民の権利の宣言」(2003年)、フィリピンの「フィリピンの人民の力革命のラジオ放送」(2003年)、韓国の「朝鮮王朝儀軌」(2007年)などで、わが国では、スペインとの共同申請による「慶長遣欧使節関係資料」(2013年)、韓国との「朝鮮通信使」(2017年)など8件が選定されているが、沖縄県とかかわるものはまだない。。
同じユネスコ遺産で、世界遺産条約に基づく沖縄にある世界遺産は、「琉球王国のグスクと関連遺産群」(文化遺産 2000年登録)、「(奄美大島、徳之島)、沖縄島北部及び西表島」(自然遺産 2021年登録)の2件が登録されている。
無形文化遺産保護条約に基づき代表リストに登録されている「組踊」(2010年登録)、「来訪神:仮面・仮装の神々」(2018年登録)の構成要素の一つである「宮古島のパーントゥ」があり、今年の12月には日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」の登録が期待されており、「沖縄空手」や「琉球料理」も登録をめざしている。
沖縄遺産は他の都道府県と比較して、自然遺産、有形、無形の文化遺産に恵まれていることがわかる。
本稿では、これら「世界遺産」、「世界無形文化遺産」に加えて「世界の記憶」の分野にも沖縄にかかわるものがノミネートされることを提案したい。具体的には、6月23日の「慰霊の日」もさることながら、まずは、「琉球王国」の歴史書「球陽」を挙げてみたい。
「球陽」は、琉球王国の正史として、18世紀に編纂された漢文で書かれた歴史書で、本巻正巻22巻・同付巻4巻・外巻正巻3巻・同付巻1巻から構成されている。
琉球王国の官僚であり、歴史家でもあった、久米村出身の鄭秉哲(てい
へいてつ 和名は伊佐川 佑実)ら四人によって作成された。
正巻には、歴代の琉球国王の治世と政治経済、天変地異、社会風俗、外交関係などが詳細に記されている一方、日本、特に薩摩藩との関係については付巻に記されている。
書名になっている「球陽」は、「琉球」:の別称でもあり、日本国内では長崎を「崎陽」と称したのと同類であったと考えられており、今でも、学校の名前などで、その名を留めている。
沖縄県立図書館や那覇市歴史博物館などに写本などが所蔵されているので、この記録遺産の存在及び重要性への認識を高めることが望まれる。
古田陽久
本稿は、2024年6月13日の琉球新報朝刊の「論壇」に掲載されました。
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