世界遺産と言語







 2002年5月,ウズベキスタンで開催された,ある国際学術会議に参加して,実に多くのことを学んだ。国際会議には,これまで,オブザーバーとして参加した経験はあるが,会議の主役の方々と4日間,宿舎で寝食を共にしたのは初めてである。

 この間,感じたことは,より多くの人々と,また,より専門的な話をし理解を深めていく為には,マルチな言語能力をもっていた方が幅広い議論が出来ることと,通訳を通じればそれは簡単なことと思われるかもしれないが,直接的なコミュニケーションの方が自分の真意は伝え易いことである。
 
 それにしても,多民族国家で育った人は,実に言語能力が発達している。何故にそんなに何か国語も話せるのかを聞いてみると,自分が生きていく為には,多言語が交錯する中で,必然的に習得していかざるを得ない,身についたものであるという。

 日本人は,どうかというと,英語にしろフランス語にしろ,やたら日本語に訳したがり,それを日本語として記憶する。例えば,世界遺産であれば,「世界遺産リスト」に登録されるのは,英語とフランス語であるが,多くの人は,記憶の中では日本語として登録されているのである。

 例えば,通称,「白川郷と五箇山の合掌造り集落」は,「世界遺産リスト」には,英語では,Historic Villages of Shirakawa-go and Gokayama,フランス語では,Villages historiques de Shirakawa-go et Gokayamaとして登録されている。そして,これを日本語では,「白川郷と五箇山の合掌造り集落」としている。(と言うより,これはもともと,「白川郷と五箇山の合掌造り集落」という日本語のテキストがあり,世界遺産の登録申請時に,英訳として,とした経緯がある)

 一般的に,日本人の言語の発想として,例えば,この「白川郷と五箇山の合掌造り集落」のことを話題にする時,どうしても直訳しようとしてしまう。こういった発想の仕方は,改めないといけないかもしれない。

 外国人との会話の中で,「白川郷と五箇山の合掌造り集落」を思い浮かべる時,Historic Villagesとしてのアルファベットの着想が必要だと思う。

 特に,気をつけないといけないのは,外国語を日本語に訳す場合,普通名詞や形容詞には,多様な意味があり,直訳した為に全く誤った訳,ニュアンスが異なる訳,或は,奇妙な訳になり,結果的にミスリードする場合がある。

 世界遺産の場合,国際的に通用するのは,あくまで,英語,或は,フランス語なので,着想の原点は,ここに置きたいと常々思っている。


  ユネスコ世界遺産センターのHP  英語  フランス語   

  ユネスコのHP  英語  フランス語  スペイン語  ロシア語  アラビア語  中国語

  国連のHP  英語  フランス語  スペイン語  ロシア語  アラビア語  中国語


 とはいえ,基本は,何といっても英語であろう。英語を母国語としないところでは,そこそこ通じても,国語とする国では,その発音やスピードについていけないことがある。
 
 初めてニューヨークを訪問した時,俺の言っていることがわかるかと言わんばかりに,早口でまくしたてられたのには唖然とした。むしろロンドンでは発音が聴きとりにくい割には,こちらの発音は,相手に伝わっていた様だ。

 また,英語であったらどこでも通じると思ったら間違いで,ドイツ,オーストリア,そして,イタリアの田舎ではほとんど通じないのには驚いた。多国語にも対応できる環境整備が必要だ。これは,他人に依存するよりは,自らをその様な環境にもっていくことだろう。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のたとえの様に。




参考文献
「世界遺産学入門ーもっと知りたい世界遺産ー」
「世界遺産入門ー地球と人類の至宝ー」
「世界遺産ガイドー世界遺産条約編ー」
「世界遺産Q&Aー世界遺産の基礎知識ー2001改訂版」
「世界遺産事典ー関連用語と全物件プロフィールー」




















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