「白神山地」,「屋久島」に続く新たな自然遺産を!!







 2002年6月24日から6月29日まで,ハンガリーの首都ブダペストのブダペスト会議センターで,ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第26回世界遺産委員会(172か国の世界遺産条約締約国から選ばれた21か国で構成)が開催されました。

 ユネスコの「世界遺産」とは,「顕著な普遍的価値」(outstanding universal value)を有する地球上のかけがえのない自然環境や人類が残した貴重な遺跡,建造物,モニュメントなどの文化財などの人類共通の財産のことで,ユネスコが作成する「世界遺産リスト」に登録されている物件のことを言います。

 今回の世界遺産会は,開催時期等のルールが変更になった為,新しく登録された物件は,9物件で,遺産種別では,自然遺産,それに,複合遺産の該当物件はなく,すべて文化遺産になりました。

 新登録物件は,アフガニスタンの「ジャムのミナレットと考古学遺跡」,インドの「ブッダ・ガヤのマハボディ寺院の建造物群」,ドイツの「ライン川上中流域の渓谷」,ハンガリーの「トカイ・ワイン地域の文化的景観」など多様な9物件が,新たにユネスコの「世界遺産リスト」に登録され,ユネスコ世界遺産は,125か国の730物件(自然遺産が144物件,文化遺産が563物件,複合遺産が23物件)になりました。

 今回,日本から推薦され登録された物件はありません。現在,日本には,11の世界遺産,すなわち,「白神山地」,「日光の社寺」,「白川郷・五箇山の合掌造り集落」,「古都京都の文化財」,「法隆寺地域の仏教建造物」,「古都奈良の文化財」,「姫路城」,「広島の平和記念碑(原爆ドーム)」,「厳島神社」,「屋久島」,「琉球王国のグスク及び関連遺産群」があります。また,今後,5〜10年以内に世界遺産リストに登録する予定の暫定リストには,現在,「古都鎌倉の寺院・神社ほか」,「彦根城」,「紀伊山地の霊場と参詣道」,「平泉の文化遺産」,「石見銀山遺跡」の5物件がノミネートされています。

また,日本の世界遺産を総体として見た場合,世界遺産,そして,今後の世界遺産候補の地域的なバランス,そして,自然遺産と文化遺産の数のバランスを考えると,地域別では,北海道地方と四国地方からの候補物件,また,遺産種別では,「白神山地」,「屋久島」に続く新たな自然遺産の登録が望まれます。

なかでも期待したいのは,北の大地,北海道からの自然遺産の誕生です。世界有数の湖水透明度と北海道らしい湖沼と山岳の複合景観が素晴らしい「摩周湖」,日本最大の国立公園であり生物多様性を誇る「大雪山国立公園」,日本最後の秘境といわれる「知床半島」,日本におけるラムサール条約第1号登録湿地である「釧路湿原」などです。

 ユネスコの世界遺産になる為には,単に,有名であるということではなく,その「顕著な普遍的価値」,すなわち,その真正性,或は,完全性,ユネスコ世界遺産の登録基準への適合性,他の類似物件との比較においての優位性の証明,そして,恒久的な保護管理措置が担保されていなければなりません。

 今回の世界遺産委員会の関連では,自然遺産関係では,当初,モンゴルとロシア連邦の両国にまたがる「オフス・ヌウル湖」,アフリカの大地溝帯で,フラミンゴが何十万羽も生息するナクル湖などがあるケニアの「リフト・バレーの湖群保護区」,西アフリカの3国にまたがるW国立公園のうちベナンの「ペンジャリとW国立公園」(ニジェール側の「W国立公園」は,1996年に世界遺産登録)の3件が候補にあがっていましたが,登録範囲についての問題点,或は,世界遺産になる為の登録要件を全て満たしていなかった為に,今回はすべて見送られました。

 自然遺産は,ただ単に,面積規模が大きいとか,壮観な景観だけでは,登録がむつかしくなっています。地球と人類のかけがえのない財産を,噴火,地震,津波,火災,風水雪害などの自然災害,それに,無秩序な乱開発,環境汚染,観光被害などの人為的な脅威からも守っていく為の磐石な保護管理措置が求められています。

 国土の面積が狭い日本の自然は,大陸的なスケールとは比較すべくもありません。日本の各地で,新たな世界遺産登録に向けての活動が活発化しています。日本を代表する,或は,日本固有の,或は,自然保護の重要性や地球環境を学習する生きた教材にもなるようなユニークで,国際的にも通用する質の高いものへの期待感を強くもっています。


古田 陽久(ふるた はるひさ)

シンクタンクせとうち総合研究機構 代表 兼 世界遺産総合研究所 代表1951年広島県呉市生まれ。1974年慶応義塾大学経済学部卒業。同年,日商岩井を経て,1990年にシンクタンクせとうち総合研究機構を設立,1998年に世界遺産総合研究センターを設置し,現在に至る。
専門研究分野 世界遺産論,世界遺産研究,環境教育,国際交流,ユネスコ等国際機関の研究
編著書「世界遺産学入門」,「世界遺産ガイドー自然遺産編―」,「世界遺産ガイドー国立公園編―」,「誇れる郷土ガイド」ほか。国内外の諸都市を取材や講演などで,数多く歴訪している。


  














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