第27回世界遺産委員会パリ会議
報 告
ユネスコの世界遺産の数は754に




 2003年6月30日から7月5日まで,パリのユネスコ本部で,第27回世界遺産委員会(176か国の世界遺産条約締約国から選ばれた南アフリカ,アルゼンチン,ベルギー,中国,コロンビア,エジプト,ロシア連邦,フィンランド,ギリシャ,ハンガリー,インド,レバノン,メキシコ,ナイジェリア,オーマン,ポルトガル,大韓民国,イギリス,セント・ルシア,タンザニア,ジンバブエの21か国の委員国で構成)が開催されました。議長は,セント・ルシアのMs.Vera Lacoeuilhe(女性)が務めました。

 今回は,「The cultural landscape and archaeological remains of the Bamiyan Valley」(アフガニスタン),Ashur (Qal'at Sherqat)」(イラク),「Royal Botanic Gardens, Kew」(イギリス),「Three parallel rivers of Yunnan protected areas」(中国),「The Mausoleum of Khoja Ahmed Yasawi」(カザフスタン),Uvs Nuur Basin(ロシア連邦/モンゴル)など24か国の24物件が,新たにユネスコの「世界遺産リスト」に登録されました。

 新たに登録された24物件の内訳は,自然遺産 5物件,文化遺産 19物件で,複合遺産については該当分はありません。これで,顕著な普遍的価値を有するユネスコ世界遺産は,自然遺産が149物件,文化遺産が582物件,複合遺産が23物件,合計で,754物件(129か国)になりました。

 世界遺産リストへの新登録や登録範囲の延長・拡大関係について審議された物件は,新登録関係が41物件,登録範囲の延長・拡大については4物件の45物件でした。複合物件については,当初6物件がノミネートされていましたが,保全状況などすべての登録要件を満たさず,自然遺産,或は,文化遺産に登録,或は,今回の登録は見送られ,改めて,複合遺産になる為のハードルは相当高いという印象を持ちました。

 今回の新登録物件では,日本の該当物件はありません。また,当初,登録が注目されていた「Nominated Complex of Koguryo Tombs」(北朝鮮)は,真正性についての再評価,保全状況,国境をはさんで,中国が暫定リストに登録している古墳群(Capital Cities,Imperial tombs and Nobles' Tombs of Koguryo 吉林省集安市ほかに分布)を含めた登録範囲の見直しなどの課題があり,今回は,見送られました。

 今回,初めて「世界遺産リスト」に物件が登録された国は,ガンビア,モンゴル,カザフスタン,スーダンの4か国です。

 また,緊急登録された「The cultural landscape and archaeological remains of the Bamiyan Valley」(アフガニスタン),Ashur (Qal'at Sherqat)」(イラク)をはじめ5物件が「危機にさらされている世界遺産リスト」に新たに登録されました。

 一方,これまでに,「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録されていた「the Srebarna Nature Reserve 」(ブルガリア)など3物件の保全状況が改善された為,「危機にさらされている世界遺産リスト」から解除されました
 従って,「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録されている物件は
35物件となりました。

 この他に,既に世界遺産リストに登録されている物件のうち登録範囲の拡大・延長等が行われたものが3物件あります。

 尚,第28回世界遺産委員会は,2004年6月28日〜7月7日に,今回の当初の開催予定地であった中国の蘇州で開催されることになりました。




【「世界遺産リスト」への新登録物件 24物件(24か国)】

自然遺産 5物件
Purnululu National Park(オーストラリア)(N i, iii)
Three parallel rivers of Yunnan protected areas(中国) (N i, ii, iii, iv)
Uvs Nuur Basin(ロシア連邦/モンゴル)(N ii, iv)
Monte San Giorgio(スイス)(N i)
Phong Nha - Ke Bang National Park(ヴエトナム) (N i)


文化遺産
 19物件
The cultural landscape and archaeological remains of the Bamiyan Valley(アフガニスタン)
(C i, ii, iii, iv, vi)
Quebrada de Humahuaca(アルゼンチン) (C ii, iv, v)
Historic Quarter of the Seaport City of Valparaiso(チリ) (C iii)
The Jewish Quarter and St Procopius' Basilica in Trebic(チェコ)(C ii, iii)
James Island and Related Sites(ガンビア)(C iii, vi)
Rock Shelters of Bhimbetka(インド)(C iii, v)
Takht-e Soleyman(イラン)(C i, ii, iii, iv, vi)
Ashur (Qal'at Sherqat)(イラク) (C iii, iv)
The White City of Tel-Aviv ・the Modern Movement(イスラエル) (C ii, iv)
Sacri Monti of Piedmont and Lombardy(イタリア)(C ii, iv)
The Mausoleum of Khoja Ahmed Yasawi(カザフスタン) (C i, iii, iv)
Franciscan Missions in the Sierra Gorda of Queretaro(メキシコ) (C ii, iii)
Wooden Churches of Southern Little Poland(ポーランド)(C iii, iv)
Citadel, Ancient City and Fortress Buildings of Derbent(ロシア連邦) (C iii, iv)
Mapungubwe Cultural Landscape(南アフリカ)(C ii, iii, iv, v)
Ubeda-Baeza: Urban duality, cultural unity(スペイン)(C ii, iv)
Gebel Barkal and the Sites of the Napatan Region(スーダン) (C i, ii, iii, iv)
Royal Botanic Gardens, Kew(イギリス)(C ii, iii, iv)
Matobo Hills(ジンバブエ)
(C iii, v, vi)


複合遺産 該当なし


【既登録物件のうち登録範囲の延長・拡大 3物件】

自然遺産 1物件
Central Amazon Conservation Complex(ブラジル)(N ii, iv)

文化遺産 2物件
Imperial Tombs of the Ming and Qing Dynasties(中国)
(C i, ii, iii, iv, vi)
Archaeological Site of Panama Viejo and the Historic District of Panam(パナマ)
(C ii, iv, vi)


【改善措置が講じられた為,「危機にさらされている世界遺産リスト」から登録解除された物件 3物件】

the Srebarna Nature Reserve (ブルガリア)
Yellowstone (アメリカ合衆国)
the Natural and Culturo-Historical Region of Kotor (セルビア・モンテネグロ).


【「危機にさらされている世界遺産リスト」への新登録物件 5物件】

The cultural landscape and archaeological remains of the Bamiyan Valley(アフガニスタン)
Ashur (Qal'at Sherqat) (イラク)
Comoe National Park (コート・ジボワール)
Kathmandu Valley (ネパール)
The Walled City of Baku and Shirvan shah's Palace and Maiden Tower (アゼルバイジャン)


                                                           以 上








 今回,パリで開催された第27回世界遺産委員会には,世界遺産が決まるまでの仕組みや世界遺産への理解を一層深める為,オブザーバーとして,当シンクタンクの代表者 古田 陽久と事務局長の古田 真美も参加致しました。

 6日間の会期のうち,最初の2日間は,定期報告と既登録物件の保護(保存)状態についての報告が延々とありましたが,登録時のオーセンティシティ(真正性)やインテグリティ(完全性)を損なうことなく世界遺産を守っていくことがいかに大変なことなのかがよくわかりました。

 今回の定期報告は,アジア・太平洋の世界遺産の状況が報告されました。アジア・太平洋地域の総合的な視点に立ったオーバービューと,物件別には,1994年以前に世界遺産リストに登録された88物件(日本については,屋久島,白神山地,姫路城,法隆寺地域の仏教建造物,古都京都の文化財が対象)の保全状況が報告されました。

 既登録物件の保護(保存)状態についての報告は,「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録されている物件のその後の改善状況の報告,次に,「世界遺産リスト」に登録されている物件のうちリアクティブ・モニタリングに基づく報告(日本の世界遺産,「古都奈良の文化財」の一つである平城宮跡の地下を通過する「京奈和自動車道大和北道路計画」の世界遺産に及ぼす脅威についての問題提起など105物件)が行われました。

 折角,「世界遺産リスト」に登録されても,登録後の保護管理状況が杜撰だと「世界遺産リスト」から抹消される規定がありますが,幸いなことに,今回も該当物件はありませんでした。

 新登録物件の数は,24か国の24物件と,結果的に,第24回世界遺産委員会ケアンズ会議で採択された,新登録物件の数を原則1締約国1物件(世界遺産がまだない締約国については3物件まで),上限を暫定的に30物件と決めた,いわゆる「ケアンズ・デシジョン」が実行された形になりました。また、今回の世界遺産委員会で、上限の数の設定が40に変更されました。

 今回,緊急登録されたアフガニスタンのバーミヤンとイラクのアシュルの遺跡については,有事の前に緊急登録されていたら,状況は少しは変わっていたのかもしれません。予測される危機が明らかな場合,「危機にさらされている世界遺産」の登録に関しては,緊急,臨時の世界遺産遺産委員会の開催や書面決議による緊急登録など世界遺産委員会の機動的な措置が必要なのかもしれません。

 会議の詳細については,世界遺産講座世界遺産勉強会・研究会などで,ご紹介していきたいと思いますが,今回の委員会で議長を務めたセント・ルシアのMs.Vera Lacoeuilhe,ラポルトゥール(書記国)を務めた南アフリカのMs.Louise Graham,そして,委員国インドのMme.Neelam Sabharwal,ユネスコ世界遺産センターのMs.Minja YANG副所長やMs.Sarah Titchenなど国際会議の舞台での女性の活躍も印象的でした。

 世界遺産委員会で使用される言語は,通常,英語とフランス語で,日本語は通用しません。日本語でもそうですが,話す人によって巧拙や訛りがあるのも事実ですが,相当のコミュニケーション能力と速解力が要求されます。日本語に訳してみるという発想は捨て,英語は英語の中で発想していく意識の必要性を感じました。

 また,委員国のうち中国からの熱意ある出席者が多いのも印象的でした。SARSの影響で,急遽,世界遺産委員会の会場が中国の蘇州からユネスコのパリ本部に変更になりましたが,2004年の第28回世界遺産委員会の開催地を蘇州にすることに反対はありませんでした。

 従って,現在,暫定リストに記載されている日本の「紀伊山地の霊場と参詣道」は,第28回世界遺産委員会蘇州会議で,登録の可否が決まる見込みです。今回の委員会で登録されたイタリアの2つの州に点在する9つの聖山からなる「Sacri Monti of Piedmont and Lombardy」は,宗教の違いこそありますが,紀伊山地の霊場と考え方が似ている様に思いました。

 尚,2003年3月に開催された第6回臨時世界遺産委員会並びに今回の世界遺産委員会で,世界遺産委員会の「手続き規則」,それに,文化遺産と自然遺産の登録基準の変更(@から]までの10の登録基準に統合),世界遺産リストに,特定物件として「文化的景観,歴史都市,運河,道」を含めることなど,2000年4月以来検討されてきた「世界遺産条約履行の為の作業指針」(いわゆるオペレーショナル・ガイドラインズ)の改訂が行われた為,後者については,2004年3月の発効時期に向けて注視が必要です。

 総じて,今回,世界遺産委員会にオブザーバーとして参加して,25の議案,134の保全状況報告,45の新登録物件候補に関するIUCNやICOMOSの評価や所見の報告,新オペレーショナル・ガイドラインズの改訂事項の審議などを限られた日数の中で,膨大な資料を読みこなしながら審議していくのは,大変ハードであるように感じました。

 世界遺産委員会の21の委員国からの出席者の顔ぶれを見ても,各国政府の外務,文化,環境分野のハイレベルの官僚が中心であり,専門的・技術的な評価は,IUCN(国際自然保護連合)やICOMOS(国際記念物遺跡会議)の報告に依拠することになります。従って,世界遺産委員会そのものは,事務局のシナリオにそって,議案をこなしていく国際的なセレモニーにならざるを得ません。

 むしろ,それまでのIUCNやICOMOSなどの専門家による評価のプロセス,事務局の膨大な事務処理の大変さに敬意を表したいと思います。

 1972年11月16日の第17回ユネスコ総会で世界遺産条約が採択されて30年が経過し,また,2003年3月の第6回臨時世界遺産委員会,それに,今回の委員会での諸規程(規定)の改訂によって,世界遺産は,新たな段階へと踏み出そうとしています。

 世界遺産という共通の概念を共有する,人種,民族,宗教,思想も多様な世界遺産条約締約国の関係者が一堂に集まる会議は,国際外交的にも,大変,意義深いと思います。全地球的な視点に立った分け隔てのない戦略を大切にし,究極的には,人類の幸福,国際平和に繋がる今後の発展に期待したいと思います。

 今回のユネスコの世界遺産委員会への出席に先立ち,ジュネーブの国際連合欧州本部,それに,レマン湖畔に近いIUCN本部とラムサ−ル条約事務局,パリのユネスコ本部にも近いICOMOS本部など国際機関の事務所も見学しました。いずれの機関のスタッフも世界の各国からの複数言語を駆使する個性的で,フレンドリーな少数精鋭の集まりでした。また,どこかで会うかもしれない,こうした人達との繋がりを大切にしていきたいと考えています。



 尚,第27回世界遺産委員会での新登録物件を含めた最新のユネスコ世界遺産については,当シンクタンク発刊の「世界遺産データ・ブック−2004年版−」(2003年8月発刊),新登録物件の概要については,「世界遺産事典−754全物件プロフィール−2003改訂版(2003年9月発刊),また,刊行中の「世界遺産ガイド」シリーズの中で,適宜,紹介してまいります。






参考文献
世界遺産キーワード事典











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