世界遺産条約30周年に寄せて





 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」(通称 世界遺産条約)が1972年11月16日にパリで開催された第17回ユネスコ総会で採択されてから30周年を迎え,新たなる持続的な発展が求められています。

 日本も1992年6月30日に世界遺産条約を受諾し125番目の締約国として仲間入りをしました。
 世界遺産条約とは,地球上のかけがえのない自然遺産や文化遺産を,人類全体の財産として,損傷,破壊等の脅威から保護し,未来へと継承していくことの大切さをうたった国際条約です。

 世界遺産条約締約国から選ばれた21か国で構成する第26回世界遺産委員会が2002年6月24日から6月29日まで,ハンガリーの首都ブダペストで開催され,新たにアフガニスタンの「ジャムのミナレット」など9物件が登録され,「世界遺産リスト」に登録されている世界遺産の数は,125か国の730物件になりました。

 また,今回の世界遺産委員会では,世界遺産条約30周年を機会に,対話と相互理解を通じて社会の持続的発展の手段としても意義があり,人類が共有し守っていくべき世界遺産を今後も増やしていく為の「世界遺産に関するブダペスト宣言」を採択しました。

 地球上の顕著な普遍的価値をもつ地形,生態系,景観などの自然遺産が144物件,人類の英知と人間活動の所産を様々な形で語り続ける顕著な普遍的価値をもつ遺跡,建造物群,モニュメントなどの文化遺産が563物件,自然遺産と文化遺産の両方の登録基準を満たす複合遺産が23物件で,毎年,新たに登録される物件の内容も多様化しています。

 日本には,現在,「白神山地」,「日光の社寺」,「白川郷・五箇山の合掌造り集落」,「古都京都の文化財」,「法隆寺地域の仏教建造物」,「古都奈良の文化財」,「姫路城」,「広島の平和記念碑(原爆ドーム)」,「厳島神社」,「屋久島」,「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の11の世界遺産があり,各地で,これらに続く世界遺産登録に向けての運動が活発化しています。

 「世界遺産」という言葉は,メディアで取り上げられることも多くなり,日本においても人類共通の財産であるとの認知度も高くなっています。

 「世界遺産」は,民族,人種,宗教,思想などが異なる多様な国際社会で,これらの違いを越えて人類が共有できる数少ない普遍的な価値概念です。

 世界遺産条約の締結国数は,2002年9月現在,174か国です。(国際連合の加盟国数は190か国)。アメリカは1973年に,イスラエルは1999年に,アフガニスタンは1979年に,イラクは1974年に,イランは1975年に,北朝鮮は1998年に,この世界遺産条約を締約しており,これらのうち北朝鮮を除く国には,「世界遺産リスト」に登録されている考古学遺跡などの世界遺産があります。

 また,今後,北朝鮮の「高句麗古墳群」の登録も期待されており,顕著な普遍的価値を有する「世界遺産」の登録には,国と国との対立を超越するものです。

 この世界遺産条約を意義を改めて考える時,登録時には,壮観な自然遺産や美しい文化遺産も,地震,火災,風水害などの自然災害や戦争,紛争,テロ行為などの人為的な災害によって,登録後にも,しばしば,不測の危機にさらされ,「危機にさらされている世界遺産リスト」にも28の国と地域の33物件が登録されています。

 この8月に欧州を襲った洪水もオーストリア, チェコ, ドイツ,ハンガリーの世界遺産地に多くの被害を与え,ユネスコは,貴重な世界遺産を救済する為,緊急援助を実施しています。

 この様な自然災害について,人道的な国際援助を行う意義は,大変わかり易いのですが,戦争や紛争による世界遺産への脅威については,パレスチナの紛争の様に,国際機関による勧告は出来ても紛争の根本的な解決には至らない現実があります。

 地球的な視点に立つならば,世界遺産条約をまだ締約していない国の締約国の仲間入りの促進,それに,領有権などをめぐって国として認められておらず,国際機関への加盟や国際条約を締約できない地域の自然環境や文化財も守っていく視点も重要です。

 世界遺産は,自然遺産と文化遺産の数のアンバランス,地域的な世界遺産の偏りなどもありますが,全地球的な立場に立った地球遺産を,テロ行為のみならず政治的な覇権主義からも守っていかなければならない地球市民的な視座が求められています。
 


古田 陽久(ふるた はるひさ)













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