世界遺産白神山地
入山パスポート制度の導入と「世界遺産保護基金」の設置を!!





                 
 この7月にユネスコ世界遺産のひとつである「白神山地」を訪れることが出来た。日本には,現在,11の物件が,ユネスコの「世界遺産リスト」に登録されている。

 自然遺産は,「白神山地」と「屋久島」の2つ,文化遺産は,「日光の社寺」,「白川郷・五箇山の合掌造り集落」,「古都京都の文化財(京都市 宇治市 大津市)」,「法隆寺地域の仏教建造物」,「古都奈良の文化財」,「姫路城」,「広島の平和記念碑(原爆ドーム)」,「厳島神社」,「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の9つである。

 私は,これまでに日本のすべての世界遺産地を回ってきたが,「白神山地」の場合は,私が住んでいる広島からの交通アクセス難や,スケジュールの都合などで,なかなか訪問できなかった。

今回,念願もかなって,弘前方面からのアプローチで,「暗門の滝遊歩道コース」のハイキングに参加した。駐車場を降り,遊歩道入口で神聖な白神の水で身を清め,暗門の滝まで渓流沿いに登って行く適度なハイキング,それに,緑豊かなブナ林の散策も楽しむことが出来た。また,汗をかいた後の暗門温泉での露天風呂も快適であった。

 次回は,白神山地の景観が展望できる白神ラインの津軽峠,天狗峠,一ツ森峠にも行って,世界最大級のブナ原生林の自然を堪能してみたいと思う。

 日本の世界遺産地を回ってみて,いつも疑問に思うことは,日本の場合,神社や寺院などの文化遺産を見るのは有料なのに,屋久島や白神山地の自然遺産を見るのは,原則「無料」であるという点である。

 カナダの世界遺産「カナディアン・ロッキー山脈公園」は,観光客が国立公園内に入る時には,カナダ公園局に入園料を支払い,パスポートが交付される仕組みになっており,入園の管理体制が確立されている。

 また,オーストラリアの世界遺産「クィーンズランドの湿潤熱帯地域」も,クィーンズランド州公園・野生動物サービスが運営するスカイレールが,地上からでは分け入ることも望むべくもない原生の熱帯雨林の森林景観を満喫させてくれる。

 両者に共通する点は,観光開発的な派手なものではなく,あくまでも環境保護を前提にした運営がなされており,入園料や利用料は,世界遺産地域の保護管理に充てられていると聞いている。

 そして,何よりも,「料金を支払う」ということにより,公園内の厳しい規制に対する入園者の自覚を促すという役割を担っているのではなかろうか。

 白神山地の場合も,入山パスポート制度の導入,それに,任意に寄付ができる「世界遺産白神山地保護基金」の様な制度を設け,恒久的な保護管理システムを構築すべきだと思う。

 今年の6月24日から29日まで,ハンガリーの首都ブダペストで,ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第26回世界遺産委員会が開催され,ハンガリーの「トカイ・ワイン地域の文化的景観」,ドイツの「ライン川上中流域の渓谷」,インドの「ブッダ・ガヤのマハボディ寺院の建造物群」,アフガニスタンの「ジャムのミナレットと考古学遺跡」などの文化遺産9物件が,新たに「世界遺産リスト」に登録され,世界遺産の数は,125か国の730物件(自然遺産が144物件,文化遺産が563物件,複合遺産が23物件)になった。

 今回の世界遺産委員会では,自然遺産関係では当初3件がノミネートされていたが,世界遺産の登録要件のうち保護管理体制が充分でない為,すべて見送られた。自然遺産は,ただ単に,面積規模が大きいとか,壮観な景観だけでは,新登録がむつかしくなっている。地球と人類のかけがえのない「世界遺産」にふさわしい恒久的な保護管理措置が求められている。

 144の自然遺産の一つであるわが国の誇れる世界遺産「白神山地」が,名実共に,自然遺産のあるべき姿を提示し,その保護管理体制についても世界を先導するモデルになることを願っている。

                                                       (古田陽久)





 
本稿は,2002年8月23日(土曜日)の東奥日報 夕刊の「あすなろ 交差点」に掲載された,当シンクタンク代表古田陽久の投稿記事「白神山地を訪ねて」を基に加筆しています。

 

 






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