2001年12月11日から16日まで、フィンランドのヘルシンキで、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第25回世界遺産委員会が開催され、新たに31物件が登録され、ユネスコ世界遺産の数は、721物件(自然遺産 144物件、文化遺産 554物件、複合遺産 23物件)になりました。 今回の委員会でも、世界遺産条約締約国から推薦され、その後、ICOMOS(国際記念物遺跡会議)やIUCN(国際自然保護連合)などの関係機関、また、世界遺産委員会(21か国)の代表7か国で構成されるビューロー会議でスクリーニングされた顕著な普遍的価値をもつ多様な物件が、新たに登録されました。 世界遺産学という学問があるとするならば、ユネスコの世界遺産はきわめて学際的で博物学的なものです。自然学、地理学、地形学、地質学、生物学、生態学、人類学、考古学、歴史学、民族学、民俗学、宗教学、言語学、都市学、建築学、芸術学、国際学など地球と人類の進化の過程を学ぶ総合学問であり、学校教育(教科課程や履修課程、それに、自由研究)、社会教育(生涯学習や地域学習)のカリキュラムやテーマに採り入れていくことも必要だと思います。 世界遺産を有する国も百か国を越えています。各々の国は、気候、地勢、言語、民族、宗教、歴史、風土など成り立ちは異なりますが、それぞれに、すばらしい芸術、音楽、文学、舞踊などの伝統文化が根づいています。 また、人類の遺産は、その時代時代を生きた人間の所産や縁の伝言でもあります。南アフリカのマンデラ前大統領ゆかりの「ロベン島」をはじめ、これまでに、ペルシアのダレイオス一世が造り上げた「ペルセポリス」(イラン)、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地でイエス・キリストゆかりの地「エルサレムの旧市街と城壁」(ヨルダン推薦物件)、ソロモン王やアレキサンダー大王が珍重したレバノン杉の産地「カディーシャ渓谷と神の杉の森」(レバノン)、ムガール帝国の第五代皇帝シャー・ジャハーンが最愛の妃の死を悼んで建てた「タージ・マハル」(インド)、仏教の開祖釈迦の生誕地「ルンビニー」(ネパール)、中国を統一した最初の皇帝「秦の始皇帝陵」、中国の偉大な思想家孔子ゆかりの「孔廟・孔林・孔府」(中国)、聖徳太子ゆかりの「法隆寺地域の仏教建造物群」、徳川家康や家光ゆかりの「日光の社寺」(日本)、ガリレオ・ガリレイが重力実験を行った斜塔がある「ピサのドゥオーモ広場」(イタリア)、聖ヤコブゆかりの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ(旧市街)、建築家アントニオ・ガウディの作品群「バルセロナのグエル公園、グエル邸とカサ・ミラ」(スペイン)、イギリスの詩人バイロンの詩でも紹介される「シントラの文化的景観」(ポルトガル)、ローマ帝国の五賢帝の一人ハドリアヌスが築いた「ハドリアヌスの長城」(イギリス)、ルイ十四世の栄華を象徴する「ヴェルサイユの宮殿と庭園」(フランス)、ドイツの宗教改革家マルティン・ルターゆかりのアイスレーベンとヴィッテンベルクにある「ルター記念碑」、文豪ゲーテ、詩人・劇作家シラー、哲学者ニーチエなど文化人ゆかりの町「クラシカル・ワイマール」(ドイツ)、モーツアルトの生誕地でもある「ザルツブルク市街の歴史地区」(オーストリア)、第二次世界大戦時のナチス・ドイツによる負の遺産「アウシュヴィッツ強制収容所」(ポーランド)、モルダウで有名な作曲家スメタナが生まれたリトミシュルにある「リトミシュル城」(チェコ)、ドラキュラ公ゆかりの「シギショアラ」(ルーマニア)、キリスト教の聖者ペテロの名に因む「サンクト・ペテルブルク歴史地区と記念物群」(ロシア連邦)、ラムセス二世ゆかりの「アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群」(エジプト)、イギリスの探検家リヴィングストンによって発見された「ヴィクトリア漠布」(ジンバブエ/ザンビア)、トマス・ジェファソンゆかりの「モンティセロとヴァージニア大学」と「独立記念館」(アメリカ合衆国)、独立運動家シモン・ボリバルが夢を語った「パナマ歴史地区とサロン・ボリバール」(パナマ)、アメリカ大陸を発見したコロンブスが最初に建設した植民都市「サント・ドミンゴ」(ドミニカ共和国)、チャールズ・ダーウィンの進化論で有名な「ガラパゴス諸島」(エクアドル)、ブラジルの建築家オスカー・ニエマイヤーが都市設計した「ブラジリア」、偉大な彫刻家アレイジャジーニョの作品が飾られている「コンゴーニャスのボン・ジェズス聖域」(ブラジル)などがこれまでにユネスコ世界遺産に登録されています。 かけがえのない地球、そして、先人達が築いてきた人類の偉大な遺産として認知された世界遺産は、自国の遺産としてだけではなく、国家を超えて保護・保存し、未来へと継承していかなければなりません。 この事の原点には、世界の平和が維持されていることが前提となる。第二次世界大戦などの戦禍で世界各地の貴重な自然環境や文化財が数多く失われました。冷戦集結後の今日も、民族間や宗教間の争い、国家間の領土紛争など、国家や人間のエゴイズムによるもめ事が、しばしば、世界遺産を危機にさらしています。 世界遺産は、地球と人類が残した偉大な自然環境や文化財など文明の証明でもあり、人間による経済活動や開発行為に起因する地球環境問題とも無縁ではありません。 我々人類は、二一世紀をどのように生きるべきか、また、どのような地球社会を築き、将来世代に継承してべきか、それらの疑問に答えヒントを与えてくれるのが、先人が残してくれた世界遺産です。 きれいごとと揶揄する向きもありますが、純粋、純真な少年的、少女的なマインドを持ち続けることが大切だと思います。 この様な視点で、物事をとらえた場合、現代社会、そして、政治、経済、のシステムも矛盾している側面も見当たります。 世界観,国家観,平和観も新たなパラダイムへの転換が必要で,その視座の一つが,地球市民としての世界遺産学なのです。世界遺産学をおすすめしたいと思います。 2002年1月29日 第2改訂 2001年11月15日 第2改訂 2001年10月25日 第1改訂 2000年1月1日 English (Summary) BY 古田陽久 COPYRIGHT シンクタンクせとうち総合研究機構 |
参考文献 世界遺産学入門,世界遺産入門,世界遺産Q&A,世界遺産フォトス,世界遺産フォトス第2集,世界遺産事典, 世界遺産データ・ブック−2002年版− |