第4回無形文化遺産委員会アブダビ会議
 

「緊急保護リスト」は、12件、「代表リスト」は、新規76件を加えて166件に




 無形文化遺産の保護に関する条約(略称 無形文化遺産保護条約)を締約している116か国の政府間の第4回無形文化遺産委員会(The fourth session of the Intergovernmental Committee for the Safeguarding of the Intangible Cultural Heritage 24か国の委員国で構成) が、2009年9月28日から10月2日まで、アラブ首長国連邦の首都アブダビのインタコンチネンタル・ホテルで開催された。

 議長国は、アラブ首長国連邦で、議長は、H.E. Mr Awadh Ali Saleh(アワド・アリ・サレハ)、副議長国は、キプロス、インド、マリ、パラグアイの4か国、ラポルチュール(報告担当国)は、クロアチアで、Ms Martina Križanić(マルティーナ・クリジャニチ)がラポルチュールを務めた。

 今回の委員会では、「人類の無形文化遺産の代表的なリスト」(略称 「代表リスト」)への記載の候補に挙がっている111件(35か国)、「緊急に保護する必要がある無形文化遺産のリスト」(略称 「緊急保護リスト」)への記載の候補に挙がって12件(8か国)の可否などが審議された。

 結果的に、今回の委員会では、「代表リスト」関係には、アルゼンチンとウルグアイの伝統舞踊の「タンゴ」など76件(27か国)が選ばれ、「代表リスト」への記載件数は、合計で、166件(77の国と地域)となった。

 国によって、若干、呼称は異なるが、アゼルバイジャン、トルコ、イラン、パキスタン、インド、キルギス、ウズベキスタンと地理的に広大な地域を横断する新年及び春の始まりを告げる祝祭行事の7か国による共同提案も「代表リスト」に記載された。

 「代表リスト」に記載された76件のうち、日本関係分は、北海道の「アイヌ古式舞踊」など下記の13件である。

 ○雅楽(ががく 国の重要無形文化財)
 ○小千谷縮・越後上布(おぢやちぢみ・えちごじょうふ 国の重要無形文化財)
 ○石州半紙(せきしゅうばんし 国の重要無形文化財)
 ○日立風流物(ひたちふりゅうもの 国の重要無形民俗文化財 茨城県)
 ○京都祇園祭の山鉾行事
  (きょうとぎおんまつりのやまほこぎょうじ 国の重要無形民俗文化財 京都府)
 ○甑島のトシドン(こしきじまのとしどん 国の重要無形民俗文化財 鹿児島県)
 ○奥能登のあえのこと(おくのとのあえのこと 国の重要無形民俗文化財 石川県)
 ○早池峰神楽(はやちねかぐら 国の重要無形民俗文化財 岩手県)
 ○秋保の田植踊(あきうのたうえおどり 国の重要無形民俗文化財 宮城県)
 ○チャッキラコ(ちゃっきらこ 国の重要無形民俗文化財 神奈川県)
 ○大日堂舞楽(だいにちどうぶがく 国の重要無形民俗文化財 秋田県)
 ○題目立(だいもくたて 国の重要無形民俗文化財 奈良県)
 ○アイヌ古式舞踊(あいぬこしきぶよう 国の重要無形民俗文化財 北海道)

 消滅の危機状況にあり、緊急の保護を要する無形文化遺産の「緊急保護リスト」には、モンゴルの伝統舞踊の「ビエルゲー」など12件(8か国)が記載された。「緊急保護リスト」に記載された理由としては、コミュニティーを取り巻く都市化などの環境変化、ノウハウを有する達人の高齢化、継承すべき若者の関心が薄らいでいることや都会への流失など後継者問題が挙げられ、現状のままでは、消滅の危機にさらされていることである。

 無形文化遺産委員会には、オーディエンスの一人として、今回、初めて、参加した。アラブ諸国のアラブ首長国連邦の首都アブダビでの開催というのも、私にとっては、大変、新鮮なものであった。

 なかでも、アブダビ文化遺産局(ADACH)による特別写真展も、アラブ諸国など世界の「文化の多様性」を知る上で、貴重なものであった。

 ドバイには、これまで、何度か立ち寄っているが、韓国仁川国際空港発、日本の関空、カタールのドーハ経由アラブ首長国連邦アブダビへの約14時間のカタール航空での長旅、40度の熱暑であったにもにもかかわらず、エメラルド色の海の色、澄みきった青空、独特のアラブの民族衣装カンドーラの友人、「エミレーツ・パレス」の見学、「アル・アヤラ(Al-ayala)」や「アル・アハァラ(Al-ahaala)」などの伝統舞踊、「鷹狩り(Falconry)」のスポーツ、そして、世界遺産暫定リストに記載されているオアシスにつくられた庭園都市「アル・アイン(Al-Ain)」の美しさなどが、私をリフレッシュさせてくれた。

 アラブ首長国連邦は、GDPの約40%が石油と天然ガスで占められ、大変お金持ちの国である。現在の7つの首長国からなる連邦国家の体制が確立したのは、1972年、日本とは、国家の成り立ちや歴史の違いはあるものの、行政システムは見習うところがある。

 何も無かった砂漠からの都市建設の歴史、年間の降水量がきわめて少ない為、飲料水は、海水を淡水化して賄われるそうだが、二酸化炭素の排出、汚水やゴミの処理方法などの環境対策も興味深かった。

 滞在中、空港、タクシー、ホテル等で見かける人の多くは、エジプト、シリアなどのアラブ諸国、インド、パキスタン、スリランカ、フィリピンなどアジアからの出稼ぎ労働者であったが、日本製の車は数多く見かけたものの、日本人は、あまり見かけなかった。

 アラブ首長国連邦は、世界遺産条約は、2001年に、無形文化遺産保護条約は、2005年に批准しているが、「世界遺産リスト」や「代表リスト」への記載物件は、まだないが、今回の委員会をホスト国として受け入れた寛容性は、高く評価されるべきであろう。

 世界遺産条約は、採択から約37年の歴史を有するが、無形文化遺産保護条約は、2003年の採択から約6年ばかり、運用も緒についたばかりであり、世界遺産条約とは、趣旨を異にするが、有形・無形を問わず、失われてはならない人類の遺産を守るという考え方は、共通だと思う。

 世界遺産条約は、世界的に傑出した「顕著な普遍的価値」を有するものが対象であるが、無形文化遺産条約の場合には、大きく異なる。世界の文化、なかでも、「無形文化の多様性」と多様な民族からなる人類の「人間の創造性」を大切にし、他との比較において傑出したものを選ぶという考え方ではなく、マイノリティではあっても、消滅しつつある貴重な無形文化遺産の緊急保護を重視している様に感じた。

 "Inscription"という英語の言葉、日本語に訳す時、"記載"とすべきか"登録"とすべきか、いつも迷うが、無形文化遺産保護条約の第1条の目的、

 (a)無形文化遺産を保護すること
 (b)関係のあるコミュニティー、集団及び個人の無形文化遺産を尊重することを確保すること
 (c)無形文化遺産の重要性及び無形文化遺産を相互に評価することを確保することの重要性に関する
   意識を地域的、国内的及び国際的に高めること
 (d)国際的な協力及び援助について規定すること

を考えると、リストに登載されることの意味からすると、"登録"の方がふさわしいのかとも思う。<日本語の解釈は難しい>

 世界遺産条約においても、地域的な不均衡が指摘されているが、無形文化遺産保護条約においても、同様の傾向が見られる。前者は、ヨーロッパ・北米地域、後者は、アジア地域であり、中国、日本に偏重しており、一度にノミネートできる数の制限が必要だろう。

 また、アフガニスタンなど紛争国の無形文化遺産の緊急保護、また、無形文化遺産の保護制度が確立していない国への法的整備の支援も大切である。

 わが国においては、国指定の重要無形文化財、重要無形民俗文化財、選定保存技術だけをインベントリーの対象にするのではなく、県指定、市町村指定、或は、無指定のものも含めたレビュー、なかでも、「社会的慣習」、「自然及び万物に関する知識及び慣習」については、研究が必要だと思う。

 ユネスコの世界遺産条約と無形文化遺産保護条約の両方を研究対象にしている私にとっては、両者の接点を見出したいところであった。なかでも、今回、緊急保護リストに登録されたケニアのミジケンダ族の神聖な森林群の中のカヤ集落群に関連した伝統と慣習」は、2008年に世界遺産リストに登録された文化遺産の「神聖なミジケンダ族のカヤ森林群」に関連した無形文化遺産であり、有形と無形の文化遺産が見事に融合した例として、今後の事例研究の対象の一つに加えたいと思う。

 2010年の第5回無形文化遺産委員会は、ケニアのナイロビで開催されるので、現地を訪問できる機会を見出したいと考えている。


                                             2009年10月2日 古田陽久


会場となったインタコンチネンタル・ホテルからのアブダビの景観



<参考文献>
●世界無形文化遺産データ・ブック-2010年版-(2009年10月) New
●世界無形文化遺産データ・ブック-2006年版-(2006年7月)
●世界無形文化遺産ガイド-無形文化遺産保護条約編-(2004年6月)
●世界無形文化遺産ガイド-人類の口承及び無形遺産の傑作編-(2004年5月)
●世界遺産ガイド -人類の口承及び無形遺産編-(2002年4月)
●誇れる郷土ガイドー口承・無形遺産編ー(2001年6月)






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